「顧客体験をリッチにする」イベントの開催が可能に
—— オンラインイベントを御社のサービスを活用して開催すると、ほかのインターフェースを活用するのとはどのような違いがあるのでしょうか。
当社のサービスは特にビジネスイベントで活用をいただいています。ビジネスイベントは一般的に営業やマーケティングを目的とするものが多く、例えば、出展者と来場者の接点作りや企業のブランドを意識した作りこみが必要となります。
既存のインターフェースでは、イベント毎のカスタマイズやブランド色を出すことが難しい面がありました。弊社サービスは、「顧客体験をリッチにしたい」という企業にプラスアルファを提供することができるという点で大きな違いがあると考えています。また、ビジネスにつなげることができるのも大きな違いであると考えます。たとえば、EventHubを活用すると事前登録した人のうち、動画を見たのはどの参加者なのか、アンケートで満足度が高いと回答したのはどの参加者かなどリード情報の分析が容易になります。参加者の情報を分析して迅速に営業フォローできる体制をつくりたい、という場合に活用しやすいのも弊社サービスの特徴です。
――どれくらいの規模のイベント開催がありますか。
イベントによって規模は異なりますが、50名以上の規模のものが多い傾向です。当社がサポートさせていただくイベントの中には、数万人単位の大きなものもあります。特に、オンライン開催になると参加者数に上限がないため、数万人単位の参加者も可能です。
――御社のサービスの認知度を向上させるために、CMやWeb広告以外で行っていることはありますか。
CMやWeb広告のほかに、週に一度ウェビナーを開催しています。参加企業様に有益な情報をお届けしながら、密接な関係の構築につなげています。また、ホワイトペーパーやe-bookを執筆して拡散するなど、さまざまな方法を取り入れています。
採用活動に苦戦することも
—— 現在は50名近くの社員がいらっしゃいますが、採用は順調に進みましたか。
最初は、大変でした。市場の変化スピードに合わせて人員増加を図るには、スピード感をもって採用しなければなりません。苦戦していましたが、たくさんのエージェントさんと契約させていただいて地道にスカウトを送ることを続けました。社員インタビューを掲載し、興味をもっている方に読んでいただけるコンテンツを増やすなど採用広報にも注力しました。また、エージェントさんとの関係性を構築して、候補者の方をご紹介いただくこともありました。当時は社内に人事がいなかったので、人事担当を採用するなど、さまざまなアプローチをしています。
自分はなにに対してパッションをもてるのか
—— 起業にいたった背景には、どのような経緯があったのでしょうか。
小学校低学年から大学卒業までアメリカで育ち、マッキンゼーに就職してサンフランシスコに引っ越しました。2011年当時、サンフランシスコのスタートアップ界隈は盛り上がりはじめていて、とても多くの起業家と出会いました。
そのような状況で「若い人がアイデアを具現化する」ということの成功と失敗を横目で見ていて「こういう道もあるんだな」と感じていました。スタートアップには、失敗することを歓迎するような、「失敗したからこそ次は成功しやすくなるよね」という風潮が存在するのです。その雰囲気を身近に感じていたことで起業のハードルは低かったのかもしれません。
出向制度を利用し17年ぶりに日本で仕事をすることになった際、「こういうツールまだないんだ」とか「紙を使った業務が多いな」と驚くことがありました。当時は日本にはまだスタートアップ企業も少なく、サンフランシスコだったらこの領域に5人くらい飛びついて起業してるだろうなと感じました。競合がほとんどいないこの環境でなら、起業するのも面白いかもしれないな、と意識したのがきっかけです。
いろいろな事業内容を考える中で、長く続けるならなにに対してなら自分がパッションをもてるのか、自分が事業を通してどのようなことを実現したいと感じられるか、ということを大切にしました。
私自身は企業の海外展開を支援することに興味があり、日本の市場がもっと世界に対して開けるといいのになと、漠然と思っていました。「イベント」は、新しい業界や新しい顧客、新しい地域を開拓するというビジネスにとって重要な手段だと思っています。そこに対して、もっとテクノロジーを活用して活性化することができたら、企業だけでなく日本の経済にも刺激を与えることができるのではないか、と。自分の体験を踏まえて、そこであればパッションをもてると感じたことが今の事業をはじめたきっかけです。コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、オンライン化がより顕著になったことで「国境を越える」ことが容易になり、より一層やりがいを実感しています。
――起業されてから「大変だったな」と感じたエピソードはありますか。
業界のプロではなかったことや、17年ぶりに日本にきたのでビジネスマナーや「日本語で営業する」ことにも苦労し、ハンデを背負ってスタートしたなという自覚がありました。違う国で、違う言語で仕事をしていたので、興味がある課題に向かって飛び込んだのは良いものの、計画性のない飛び込み方をして最初は辛かったです。準備万端な起業ではなかったです。それこそ、起業したのは27歳の頃だったんですが、自分にほとんど給料も払わず、資金調達もせず自己資金だけではじめたので「ジリ貧」状態でした。
実は2019年くらいまで、私も共同創設者も自分の生活費はそれぞれ別に仕事を持ってまかなっていました。調達をしたのは起業してから3年後ですね。2019年頃に資金調達したのですが、これは事業にとっての波がきたことが理由です。マーケティングや営業をデータドリブン(データ分析をもとに判断する)にやるというカルチャーが根付いてきた、と感じたタイミングが2019年頃でした。
起業時に資金調達して事業展開を一気に進めることもできる中で、業界のプロではなかったこと、サービス提供をしながら市場のリサーチを進める必要があるなど、やらなければならないことがたくさんありました。人それぞれ、たとえば波がきてから調達して業界に飛び込む選択肢もありますが、私はちゃんとお客様と対峙してリサーチをして、という段階を踏んだのでスロースタートでした。
――事業と自分の生活費を別の仕事でまかなう「二足のわらじ」という大変なことをこれまで続けてこられた理由はなんですか。
やめたいと思ったことはありませんが「集中したいな」「お金がないのは辛いな」と感じたことはあります。本当はもっと早く調達して、集中して事業を進めた方が良いんじゃないか、と悩んだりしました。続けてこられたのは、おそらく別の仕事をもっていたことも影響しています。これはあくまで私の考え方なのですが、事業は続けること、諦めないことがとても大事だと思っています。個人的には「副業起業」も賛成の立場です。一本に絞ることも素晴らしいことだと思うんですが、そこで収入が入らないと精神的に辛くなるんですね。それが原因で諦めてしまうこともあると思います。二足のわらじで続けてこられたことで、ある意味金銭的に苦慮することがなかったり、相乗効果が得られたりしたので、自分にとってはうまくいった方法でした。
海外展開に向けて採用で重視すること
—— 今後「何年後にはこうしていきたい」というような目標はありますか。
現在当社は国内でシェアNo.1のプラットフォームとなり、今年3月には本格的に海外展開を開始しました。まず、今年中に利用企業および従業員の20%程度を海外展開チームにするというスピード感で進めています。2、3年後にはアジアNo.1になりたいと思っています。
未知の領域に踏み込むことにはなるので、まず飛び込んでみるという感じですね。ハイスピードに人員増加を進めてきたので、ミスマッチが起こることはこれまでにもありました。ミスマッチを防ぐための完璧な対策は難しいものですが、大切にしているカルチャーを採用に落とし込み、価値観やマインドセットを重視して採用活動を進めています
――最後に若者へメッセージをお願いします。
やりたいことがあるときは「アドバイスは話半分に聞く」くらいで良いと思います。「起業家はこうあるべき」みたいないわゆる「べき論」を投げかけられることもあると思うのですが、最終的には自分の直感に従った方が悔いはありません。
親や周りに反対される意見ばかりを聞くだけではなく、後悔するかしないか「迷うことがあったら直感を信じる」というのも大事だと思います。