言語の壁を乗り越えた世界を作る
—— 事業内容を教えてください。
Flitto(フリット)本社は2012年9月韓国で設立され、2019年に韓国で上場を果たしました。現在は韓国のほかに、日本・中国と3か国に拠点があります。日本法人であるフリットジャパンは2018年に設立しました。
事業内容は、クラウドソーシングの翻訳サービスを提供しています。主にFlitto翻訳アプリを展開していて、世界173カ国、1200万人以上のユーザーを獲得しています。翻訳家も300万人以上登録しています。
Flittoを基軸に、クラウドソーシング翻訳からビデオの字幕翻訳、Web漫画の翻訳、ビジネス向け翻訳など、デジタルコンテンツの翻訳に特化しています。
他にはカンバセーションAIと呼ばれる、音声認識システム、自動翻訳システム、AI-OCRなどのAI機能の精度向上のために、言語データの収集加工と提供も行っています。
—— 日本法人の社長になった経緯を教えてください。
2014年にIT企業を3人で起業した後、2019年にその会社の役員を退任し、グローバルなビジネスを展開したいと思って起業の準備をしていました。そんな時、Flittoの創業者に出会い、彼のビジョン「言語の壁のない世界を実現する」に共感し、日本法人の社長になりました。
実は私が初めて入社した会社は外資系の金融機関だったのですが、日本人は私1人しかいませんでした。ですので、強制的に英語を話さなくてはいけませんでした。昨今、多様性とかダイバーシティが重要と叫ばれていますが、世間でそう言われるずっと前から色んな国の人と働いたことで、グローバルスタンダードで物事を考えていくことの重要性を痛感しました。
そして、日本のマーケットだけではなく、世界を対象にビジネスをしていくことに魅力を感じていました。このような経緯で、世界基準で物事を考えられるビジネスパーソンを育てていきたい、そんなチーム作りをしていきたいと思い、フリットジャパンの社長に就任しました。
経験者ではなく、あえて未経験者を採用することでミスマッチを無くした
—— 失敗談などあればお聞かせください。
これまで2つほど大きな失敗を経験しました。1つ目は採用についてです。採用をしていく上で、即戦力を求めたということもあり、中途の経験者を積極的に採用していたのですが、何度か失敗してしまいました。30〜40代の経験者を採用してわかったのですが、立ち上げのフェーズでそういった方々が活躍するのは難しい場面もあったように思います。
外資系のスタートアップというと経験者を求めがちになりますが、その方たちの経験が今の会社のフェーズに役立つかというと、実はそうとも限りません。ミスマッチの人材に任せた結果、お互い任せ合いになり、それぞれ責任を持ってくれない状況に陥ってしまいました。
部長職やマネージャー職の経験者の方は、人にもよりますが、なかなか自分で動くことが苦手になっている方が多く、動くべきタイミングでも動けない方が一定数いる傾向にあると感じました。
その後、採用の方針を変えて、1からチャレンジしていきませんか?というスタンスで採用を始めたら、未経験者でもミスマッチがないことに気づきました。
もう一つの失敗としては、本社のポリシーに合わせ過ぎて取引先や社内に迷惑をかけてしまったことです。通常、スタートアップ企業は投資家から資金調達をして事業を行っていくわけですが、我々の場合、韓国の本社が投資家という感覚で日本法人を運営しています。
しかし、韓国と日本とでは国が違うので、文化も商習慣も違います。ですので、運営はその国にローカライズしていかなくてはいけないと感じました。これがわかって、ビジョンとは別に、2年目から日本法人独自のミッションと行動指針を作りチーム作りを行いました。結果的に業績も上がり組織も回り始めた。
上場してからがスタートライン
—— これからの展望を教えてください。
最低でも日本市場で上場したいと考えています。外資系企業が活躍するにはその国に根付かないといけない。そのためには、上場して信用度を得ていきたいと思っています。上場がまずはスタートラインだと思っていますので、まずは上場を目指しています。
そこまでにはまだまだ売上の面にしろ、組織体制にしろギャップだらけなので課題を解決していきたいと思います。
組織体制の課題としては、日本法人を立ち上げて2年目からコロナになり、社内をフルリモート化して、オフィスへの出勤を無くしました。フルリモート化してから、また1から人事評価や報酬体系、そして勤務体系を構築していかないといけません。
フルリモートする上で一番参考にしたのが、Netflixの社風です。Netflixはグローバルに展開している会社ですので、私達もコンテンツの翻訳業なので、共通している点が多く参考にしています。ですので、Netflixの行動指針や実例を学んで会社に落としていきました。
フルリモートにしてからは、売上が伸びました。主な理由としては、単純に移動時間がなくなり、無駄話をしなくなり、仕事の時間がこれまでよりも増えたことだと思います。さらに、会議の時間も減らし、1週間に2時間だけみんな集まるようにしました。
勤怠も個人に任せて、権限委譲しています。自分たちで自立して仕事をする体制を作っています。
—— 若者へメッセージをお願いします。
「実業家であれ」と言いたいです。スタートアップ企業はキラキラ見えるけど、そういったキラキラした場所に身を置いて得られることよりも、泥臭いことをやって、しっかりと売り上げを伸ばして行かないと足元をすくわれてしまいます。
ビジネスの原理原則は昔から変わりません。誰かにサービスを提供し、その対価としてお金をもらう。こういった基本を忘れずに、市場環境が変わっても、それに合わせていくことが大事です。実業家として、地道に積み上げて行ける人になってほしいと思います。