「社会に直接的な活動を行ってみたい」ニューヨークでの活動で確信したこと
—— 起業したきっかけは何だったのでしょうか?
私は総合商社で15年間働いてきましたがバックオフィス系だったこともあり、直接日本社会に貢献ができる領域で勝負をしたいと思い至ったのがきっかけでした。過去にもゴミ拾いや、NPO支援等のボランティア活動をしており、新卒で商社入社後も継続して勉強会・交流会を主催するなど、社会と接点が持てることに意欲的に取り組んできました。
転機は、仕事でニューヨークに駐在していた時に訪れました。仕事をしながら、ビジネススクールにも通わせて頂きましたが、その傍らでマンハッタンの真ん中をゴミ拾いする活動「ゴミニケーション」というボランティアの集まりを有志で立ち上げたことです。ゴミ拾いってすごく純粋な活動で、街は綺麗になれば、仲間も増えるし、自分の心も掃除ができる、そんなゴミ拾い活動から沢山のことを学ばせてもらって、次第と、そうした活動をしながら、社会課題に関心を持つようになってきました。
日本に帰国後も、同じコンセプトで活動を続けました。表参道や代々木公園の周辺をゴミ拾いする活動は、次第と大きくなり、今度は思い出の残るような挑戦をしようということで、ボランティアネットワークをさらに広げて、世界最大の二人三脚、世界最大二人三脚レースの2つのギネス記録に主催者として挑戦をして、2010年、2011年にそれぞれ達成することができました。その経験から、頑張っている人を応援するNPO団体も立ち上げたり、3.11の福島支援など、できることを実行していきました。こうしたゴミ拾いや社会貢献活動を通じて学んだことは、「みんなで力を合わせたらすごいものが生み出せる」ということだったと思います。言葉でいうのは簡単なのですが、それを少しでも実体験で味わってきましたので、会社を起業する大きなきっかけにもなったと思います。「一人の100歩より、百人の1歩」が重要なんですよね。商社では社内ITというバックオフィス系で仕事をしていたため起業したら、同じIT分野でも、イノベーティブなプロダクトを開発し、少子高齢化社会に貢献していきたいと強く思いました。
「環境に負けないようにしていくことが必要」事業の特殊性と環境によるダブルパンチを乗り越えるには
—— 起業した中で困難・苦難を乗り越えたエピソードを教えてください!
ハードウェア開発としてコミュニケーションロボットを作っていたこともあり、資金調達と量産(製造)に苦労しました。ロボット開発には相当の資金が必要であり、億単位はかかってしまいます。スタートアップとしては、その資金調達は大きな課題になりますし、また優秀なエンジニアも集めなくてはなりません。死の谷といわれる量産工程では、何度も作り直しが発生し、部材の品質管理、調達にも苦労し、結果スケジュール遅延も幾度か発生しました。ロボット製造から販売まで結局、3年程度かかりましたので、その間売上もほぼ無く、それは苦しい時期でした。この苦難を乗り越えられたのは、株主を中心としたパートナー会社からのリソース面や、温かい支援もとても大きかったですが、やはり社員の底力のおかげで一番苦しい時期を乗り越えられたと思っています。自分が資金調達に奔走している時も、エンジニアの仲間が粘り強く、そして逆風が吹いているときでさえも、決して諦めることなく、開発を進めてくれたんです。必ず成功できるとみんな信じてくれていました。
--事業を展開するうえで現在、困難に感じていることはありますか?
1つは社会情勢と大きく関係している点ですね。コロナ禍における緊急事態宣言等により、営業活動に制限がかかってしまったことです。ロボット販売は実機でのデモが必要ですので対面営業が必要ですし、弊社のAI電話サービスも飲食業界中心に展開していましたので、新型コロナウィルス感染拡大による影響は、とても大きかったです。
2つ目はコロナが発端で世界的に半導体不足が起こったことです。足元のロボット需要は伸びていますが、半導体中心に部材の調達に6か月~12か月前後かかるなど、部品の調達に苦労している点です。
これらは、共通の課題をお持ちの事業者さんも多いと思いますが、自分たちでコントロールができない側面もあり、複雑な思いはあります。
今後は、こうした環境にも負けないように、プロダクトを強化するとともに、エンジニア採用を中心に、採用活動も頑張っていきたいと思います。
「モノと心は会話する」ドラえもんのような世界観を創出したい
—— 将来の展望や今後の事業展開について教えてください。
10年後には、会社のビジョンにあります「モノと心を通わせる」という温かみのあるコミュニケーションを可能にした時代が到来していると予想しており、弊社のプロダクトがそこで幅広く使われていると良いなと思い描いています。現在はスマートスピーカーが国内で6%程度普及していると言われています。これらは「音楽を流して」などコマンド方式型なものになっていますが、いずれ家庭に普及していくのは、双方向で人とコミュニケーションが取れ、感情移入ができるロボットだと考えています。目指しているのは、ドラえもんのような世界観でして、パーソナルロボットが家族の一員として活躍している世界が夢です。既にロボットが自我を持つような自我形成の研究にも着手し、特許を取得するなど、徐々にですが夢への実現に向かっています。また、今では話せるキッチン・炊飯器・電子レンジもあるように、最終的には弊社もロボットに限らず、モノと会話していけるようなイノベーティブなことにチャレンジしていく会社であり続けたいと願っています。
「起業は皆さんが思うほどリスクはかからないはず」アメリカ在住で学んだチャレンジ精神
—— 最後に若者へのメッセージをお願いします!
何でも良いのですが、何かにチャレンジをしたい思いや、ささやかなことでも夢を持てると良いなと思います。挑戦しようとするときに反対者がいたり、挫折をしたり、社会状況によりできなくなってしまうこともあるかもしれません。それでも、何度でも何度でも描き続けさえいれば、その思いはやがて「信念」になり、夢から目標へと変わっていきます。また、人生には波がありますので、今すぐできなくても、諦めさえしていなければ、いつか「ここがタイミング」という、人生の転機というものは必ずや巡ってくるものです。
さて、起業というテーマで考えたとき、挑戦する心構えに加え、最終的に大事なのは「信念」で、信念がある人に、人は集まってきます。また、最初は怖いかもしれませんが、第一歩さえ踏んでしまえば、意外とすんなり起業はできるものです。今の時代、その挑戦をSNS等で公開していくと、自然と背中を押して応援してくれる人が増えていきます。そうして自分が発した言葉の力が、今度は自分の原動力になって、行動を支えてくれるようになります。挑戦のサイクルができあがるわけです。
そして起業は皆さんが思うほどリスクはないと思います。私はアメリカに9年いましたが、アメリカではベンチャー投資・エンジェル投資も盛んで、失敗した人が評価される文化が醸成されています。日本も、そういった流れが徐々に経済界に入り込んでおり、その文化も醸成されつつあることを感じています。起業は確かにリスクは取らなくてはなりませんが、何かあっても死なないですし最低賃金は守られ、今はベンチャーの優遇制度や大企業とのオープンイノベーションの窓口が多数用意されていて、挑戦できる土壌はそろっています。若い方々はまだ背負うものが比較的少ないと思いますので、思いっきり思うがままチャレンジしていって欲しいなと思います。そして謙虚に努力さえしていければ、自ずと応援者は増えていくと思いますよ。