「感動」を提供する軸からブレなければなんでもやる
—— 今の御社の事業や、ほかの企業とは異なる点についてお伺いできますか。
moobleは、英語の「move(感動させる・心を動かす)」に「able(~できる)」を加えて「感動させることができる」という意味の社名になっています。現在、展開している事業の1つが「大学受験」専用の塾なのですが、なぜ始めたかというと、「大学受験」が終わり合格した際に、本当に”ここで受験勉強して良かったな”、”ここで人生変わったな”という感動に触れているときが一番楽しさと幸せを感じているときだなと思っており、その「感動」を重視する軸からブレないことであればなんでもやろう、という思いをもったためです。
企業としては、社員に対して「企業のために働け」とは思っていません。転職するのもWワークするのも自由だし、好きなようにしてくれて良いけれど「義理」は通してほしいという考え方です。私たちの集団に入るのであれば、人を楽しませたり人を感動させたりすることを楽しいと感じられる人材としか働きたくないなという思いはあります。
弊社の中でとくに福祉において、業界として「薄給」であることが多いんです。たとえば「稼ぎたい」ということが人生の軸でもっとも大切な人は、弊社に入ったとしても幸せにはなれないですよね。だから、人を楽しませたり感動させたりすることが自分の人生において、稼ぐことより、あるいは稼ぐことと同等に大切だと考えている人に来て欲しいから、それを全面に出しています。
三方良しのビジネスになる予感と現実
—— 御社の事業の中で、精神発達障害を扱う就労移行支援サービス「CONNECT-こねくと-」というのは、どのような経緯ではじめるに至ったのでしょうか。
「CONNECT-こねくと-」は2017年にはじめたサービスです。中学2年生のときに、障がいをもつ同級生をサポートする子たちと仲良くしていたことがきっかけで「障がいをもつ人」というのを知りました。実は、私は母子家庭なんですけども、2016年に長年連れ添った愛犬が亡くなりまして、その年に母親が「仕事を辞めたい」と言い出しました。しばらくして、弊社の役員のひとりに弟が障がいをもっている人がいるのですが、障がいの症状進行によって弟が亡くなってしまったんです。
そういったことが重なっていた2016年頃に、「就労移行支援」の話をいただきました。母親が働けるようなドッグカフェをつくって、障がいをもつ方の雇用創出にもつながる「母親孝行」「ワンちゃん孝行」「障がい者孝行」の三方良しのビジネスになるんじゃないかと思いましたね。そのきっかけとして就労移行支援事業所をはじめよう、としたのが2017年でそれが「CONNECT-こねくと-」をはじめるに至るきっかけでした。
実際にやり始めてみて「障がいをもつ人が働けるドッグカフェ」の実現がとても難しいことを実感しています。弊社が雇用創出につながる事業をつくったとしても、そこに就労移行支援から就職した人は「就職実績」にはならないんです。連携できない、というのが国のルールです。
――「マナビズム」を土台にしながら事業展開されているかと思うのですが「CONNECT-こねくと-」は順調でしょうか。
そうですね。むしろ「CONNECT-こねくと-」の方が「マナビズム」よりも伸び方は早いですね。理由としては、塾よりも「経営の再現性」が圧倒的に高いからだと思っています。塾は、高学歴な人でないと働けないことが多いんです。とくに大学受験の塾って私自身は学歴は関係ないと思っているんですが、実際に通う子どもにとって気になるポイントになります。でも、高学歴な人であれば、大学在学中から塾講師のアルバイトとして働けますよね。だから、塾講師がどういった職業なのかを学生時代から理解しています。
そこで職業として魅力を感じてくれた人であれば入ってきてくれますが、大学受験の塾という仕事を選ぶ確率は非常に低いんです。金融だったり、マーケティング、コンサルといった業界へいく人材が多い。そういった現状から「採用の再現性」も低く、採用した人材がうまく教室運営をしていけるかという「教室再現性」も低くなります。そういったことと比べると、就労移行支援は人材の採用に関しては塾よりもハードルが低いし、一事業体での利益率も大きく、競合が弱いことも影響しています。簡単に利益が出せた時代から福祉業界に参入した人たちと競合するのは、競合の強い塾業界から参入してきた私たちにとってはそれほど難しくありませんでした。
入社した人材のバリュー(価値)につながる企業成長を
—— 優秀な人材を確保したいという思いはあると思いますが、御社だからこそできるほかでは経験できないような魅力やアピールポイントはありますか。
弊社は、YouTubeも展開しているので、ほかの同じ業態よりも採用に関しては困っていない方だと思います。YouTubeを見てくれた人が、私たちの教育理念に共感してくれて「大学受験」というものに魅力を感じてくれると、SNSを通じて連絡をしてきてくれます。そういった流れで入社してくれるケースは毎年あることなので、弊社は新卒が多くて若い。そういった意味では、ほかの企業ではもっと採用コストをかけているでしょうし、苦労している部分はあるのではないでしょうか。
他社との違いという視点では、ベンチャーに入るのであれば「自分のバリュー(価値)が上がらなければ意味がない」と思っています。伸びていく会社に入らなければ自分のバリューも伸びていかない。だから、新しい人材に入ってきてもらうためには、会社を伸ばしていかないといけないんです。
私自身は、現在12校舎ある塾を5年以内に100校舎にしたいという思いがあって、それをベースに走っているから、入社した人には「成長企業にこのタイミングで入社して成長過程のこの部門を私が担当しました」といってもらえると思います。そうすれば、必ず自分の価値があがりますよね。そういった気持ちや志をもって、弊社に入ってきてくれるといいなと思っています。
人生の転換期は「20人に囲まれて受けたリンチ」
—— 失敗経験や過去にあったできごとについてお伺いできますか。
中学2年生のときに、20人に囲まれてリンチを受けた経験があります。 あまり良い子ではなかったので、同じ中学校に気が合う友人もあまりおらず、いろんな中学校の悪い子たちが集まっているようなグループにずっといたんです。そういった状況の中で調子に乗っていたので、目を付けられて公園に呼び出されたんですが、公園だと警察を呼ばれてしまうからと近くの体育館の地下駐輪場に連れていかれて、といった感じですね。そのときに「自分は別に好きでこんなことをしているわけじゃないのにな、楽しくないな」と気づいて、そこからガラッと人間関係を変えて勉強するようになりました。これがまずひとつ目の人生の転機ですね。
学校にもあまり真面目に毎日行っているタイプではありませんでした。弊社のYouTubeを見ている方には私はポジティブな印象に映るかもしれませんが、中学2年生のこの転機を迎えるまではずっと希死念慮がありました。「なんで生きているんだろう」「なにが楽しいんだろう」と思っていた記憶があります。なにも楽しくなかったので、無気力で「悪いことがカッコいい」みたいな、ヒエラルキーの頂点にいるような気持ちがあったんでしょうね。そんなときに痛い目にあって、自分の人生を見つめ直す機会になりました。
当時はヒエラルキーの下位にいると思っていた「障がいをもつ人をサポートしている子たち」と接するようになって「中学生でこんなに人間ができている人たちがいるのか」と衝撃を受けたんです。中学生で当時、自分のことしか見えていないようなタイミングでしたから、本当に衝撃でした。人のことをしてあげられる人たちを見て「なんて余裕がある素晴らしい人たちなんだ」と。その子たちとすごしていると幸せを感じて、そんな人たちといる自分自身のことも誇らしく思うようになっていきました。
人生ではじめて出会った「カッコいい大人
私自身は幼少期から空手をやっていまして、大学はスポーツ推薦で入るつもりでいました。そんなとき、数学の授業を担当していた先生が突然倒れて、代わりに来た非常勤の先生の授業がとてもわかりやすかったんですね。その先生はもともと塾講師の方だったんですが、その塾に行けばもっとすごい先生がいる、と聞いて入塾してカリスマ的な先生と出会いました。
生まれてはじめて「カッコいいと思える大人」に出会った瞬間です。
その先生とは塾の先生として出会ったんですが、実際は経営者であり投資家でもありました。こんな大人になりたいと思って、その先生に「僕も投資家になりたいです」といったんですが、めちゃくちゃ怒られたんです。「自分の人生やなりたいことを職業で決めるな」といわれました。自分がどのような生き方をしたいか明確にしたうえで、それを実現するための手段として職業があるんだ、と。その言葉もまた人生を見つめ直す機会になりました。私は「周りにいる友人たちと美味しいご飯を食べて、幸せな人生を歩んでいること」が一番幸せだと感じていて、当時紙に「人の夢を叶える人になりたい」と書いたんです。この言葉を書いたのは17歳の頃でしたが、33歳になる今もこの気持ちはまったく変わっていません。――生まれてはじめてカッコいい大人だと思った先生は、どのようなところをカッコいいと感じたのですか。
「仕事しているときに笑っているから」ですね。本当に楽しそうに仕事をしていたからです。これまで見てきた学校の先生は、楽しそうではないし「仕事をやってる」という印象でした。親を見ても人生が楽しそうだなとは感じなかったのに、その人は本当に人生が楽しそうだったんです。 そういったところを見て「カッコいい大人だな」と感じました。
――最後に若者へメッセージをお願いします。
大学生くらいの頃は、高校生のときと比べて「自分の心の声」が聞こえなくなってきているタイミングだと思います。それでも、30代や40代と比べればまだ「どう生きていきたいか」という心の声は聞こえるはずです。この「どう生きていきたいか」を軸にして考えていれば、絶対にどんな職業に就こうとも自分は幸せになれます。でも、その軸を失ってしまうと、生きる意味を見失ったり、ほかのものに幸せを見出そうとしたりします。「今幸せじゃないからこうなれば幸せ」だと思ってしまいがちになるので、まずは自分がどう生きたいのかをこの記事をきっかけに見つめ直していただけたらと思います。