「果たしてこれでいいのか?」と自問自答を繰り返して起業に踏み切った
—— 事業についてご説明いただいてもよろしいでしょうか。
不動産売却プラットフォーム「いえうり」を提供しています。一般的な一括査定サイトは物件情報と個人情報が不動産会社に公開され、売主さんへの連絡が殺到して、3分毎に電話が掛かってくるというUXになっています。当社のサービスは、売主さんの個人情報を守りながら最高査定額に出会えるプラットフォームです。
ーー起業されたキッカケがあったのでしょうか。
自営業を行っていた両親の背中を子供の頃から見ていたこともあり、社会人になってからはいつか起業したいと漠然と思っていました。起業する前に勤めていた電子CADメーカーでは取締役を任せてもらっていて、やりがいのある仕事にも恵まれていましたが、「果たしてこれでいいのか?」と毎日自問自答を繰り返すようになり、暇さえあれば新しいビジネスモデルを考えるようになったのが起業につながっていると思います。
本当はもっと早く起業したかったのですが、前職の会社で規模の大きいプロジェクトに7年間、関わっていたこともあり、なかなか退職するタイミングがありませんでした。そのため、38歳という年齢で起業に至りました。
ーー起業した時に不安な気持ちは無かったのでしょうか。
家族がいるのでもちろん不安はありました。しかし、妻の理解を得ることができたことと私自身が成功すると思い込む性格なので、不安や恐れを抱きながらも起業を進めることができました。
「失敗は改善すればいいだけ」と考えて失敗を失敗と捉えない
—— 困難や苦難を乗り越えたエピソードがありましたらお伺いできますか。
細かな失敗や困難はいっぱいあります。しかし、私は非常にポジティブシンキングで「失敗は改善すればいいだけ」と考えているので、失敗を失敗とあまり捉えていません。
その中でも大きな失敗だったなと思うのは、中古車の個人間売買プラットフォーム「クルマフリマ」を提供していたときに、売主と買主のどちらを先に集めるべきかの卵鶏問題とユニットエコノミクスの課題は、なかなか解決が難しくてその事業からピボット(事業転換)しています。
現在の事業では、過去の失敗を活かし、徹底的にその問題について考え抜きました。失敗しても、失敗は生かせると思っています。
「落ち込むチャンス」はたくさんあるが、必ず改善できる
—— 失敗した時に落ち込むことは無いのでしょうか。
失敗しても落ち込むことはありません。起業家は「落ち込むチャンス」はいくらでもありますが、いちいち落ち込んでいると社内の雰囲気が悪くなったり周りがついてきません。新しいことを始めるタイミングって断られることが仕事のようなものなので、耐性ができているのかもしれませんね。
考え方としては、失敗してもそれを改善できる方法は必ずあるので、自分の中に経験として積み重ねていけばいいと思っています。どんな状況でも明るくポジティブでいることが人を巻き込んでいく力にも直結するので落ち込まないことは重要だと思います。
不動産売買のエコシステムを実現し、誰もが損をしない世界に
—— 今後の展望はありますでしょうか。
不動産売買のエコシステムを実現したいと思っています。不動産売買は一生に一度程度の数少ないイベントなので、情報の非対称性が大きいです。そんな世界でも仕組みで合理化させることで、だれもが損をしない世界を創ることができると思っています。
先日2/10にリリースした新サービスもエコシステムの一部を担っています。仲介手数料無料の不動産購入サイト「チョク買い」です。売却側と購入側のベストプラクティスを提供することで、合理的なエコシステムデザインが完成しますので、この両輪を成長させていきます。
また、採用については、不動産業界でのシェア獲得は時間がかかると想定しているため、むやみに増員するとバーンレートが高くなって失敗する可能性が高くなると思っています。ですので、現在はあえて少数精鋭で事業推進していますが、プラットフォームが急激に成長してきているのと、やりたいことはまだまだあるので、いまは、積極的に増員していきたいと考えています。
大手企業のように潤沢な資金を投入して広告でブランディングしていく方法はできない
—— 事業での困難があればお伺いできますか
ユーザーである不動産の売主さん集めです。不動産会社については、仲介ができる会社が1,300社以上、買取ができる会社も1,300社以上登録されていて、日本で最大級のプラットフォームに成長してきています。
不動産の売主さん集めですが、いわゆる顧客獲得単価が高くなるので、色々な戦略を考えて日々改善しています。一気に集めるなら、大手企業のように潤沢な資金を投入して広告でブランディングしていく方法でしょう。しかし当社のようなスタートアップ企業が資金力で勝負するのは現実的ではないので、他のやり方でブランディングをしていかなければなりません。
工夫として、コンテンツマーケティングを3年以上前から仕込んでいます。例えば、売主さんが不動産を売りたい時にネットで調べるようなことをテーマに記事を書きます。そして、記事にアクセスした売主さんの心をきちんとキャッチするのです。この方法が順調にいっており、ネットで「戸建て 買取」「マンション 買取」などのキーワードで検索すると、当社の記事が検索の上位に表示されます。
他にも、広告を出す場合は土地単価ランキング上位の物件を狙います。地方の物件の場合は物件価格が都心部に比べて低いため、広告ではなくコンテンツマーケティングからの顧客流入を狙います。スタートアップだからこそ、緻密な戦略を練って事業を展開しています。
「人生に、リハーサルはない」という言葉は、まさしくその通り
—— 最後に新卒や若者へのメッセージをお願いします。
私からみなさんに偉そうに言えることは全くありません。ただ、名刺の裏にも書いている「人生に、リハーサルはない」という言葉は、まさしくその通りだと思っています。起業する前は、金銭的にも裕福で生活に不自由もありませんでした。ですが「毎日これでいいのか?」と考えて日々を過ごしていました。
そして、「人生に、リハーサルはない」という言葉を念頭に行動していたら、起業という選択肢にたどり着いたと思います。もし起業したいと考えている人がいるのであれば、思い切ってやってみるのもひとつでしょう。人によっては苦痛を感じると思うのでおすすめはしませんが、見たことがない景色や誰もが経験できないことにも出会えるので、人としての成長にはつながると思います。
実は私も不動産業界に入るときに業界知識はほとんどありませんでした。普通は「この業界でやっていけるのか」と悩むでしょう。しかし、課題を見つけて事業をやりたいと思ったら、業界情報のキャッチアップはもちろん、不動産会社に飛び込んで一次情報の取得を行ったり、セミナーにこっそり参加したりと、自然と身体が動くので行動しているうちに自信が湧いてきます。
決して起業を勧めるわけではなく、「やりたいことがあるのであれば、後悔がない道に進むべき」ということを伝えたいです。みなさんの人生にもリハーサルはありません。ぜひ「これでいいのか?」と自問自答してみてください。きっと道は拓けるはずです。頑張ってください!