どうすればコロナ禍で苦しむお客様の業績を本質的に伸ばすことができるか
—— 起業当時の逆境体験がありましたらお伺いできますか。
フードテックキャピタルの立ち上げから今日まで、毎日が逆境体験です。当社は元々は、財務コンサルティングや上場支援をお手伝いするコンサルティング会社でした。ですがコロナ禍に突入し、飲食店のお客様が資金難に落ち込み、経営が厳しくなる状況を目の当たりにすることになります。優良な飲食店の企業様でも、緩やかに資金が尽きていくという状況でした。
そのような状況の中、当社はお客様のニーズが変わっていくのを実感していました。そこで当社は、会社をコンサルティング企業からテック企業に転換することを決意しました。コロナという逆境の中、どうすれば苦しむお客様を助け、業績を伸ばすことができるかを一番に考えることにしたのです。お客様に合ったオペレーションのデザインはどうあるべきかや、どのようなテクノロジーを提供することができるか、ということを考える事業に特化することにしました。
――方向転換をするときに不安はありませんでしたか。
不安はなく、とにかく「日本のため、飲食業のため」という感覚でした。おそらく多くのみなさんが、学生のころに一度は飲食店でアルバイトで働いた経験があると思います。そこで人生で初めて飲食店に携わるのですが、そのまま飲食業に就職する学生が少ないのが現状です。
飲食店は労働環境が過酷なところが多いです。ですが、その状況を少しでも良くしていきたいという願いを、我々はずっと持っています。逆境や不安というよりは、「何としてでも飲食業界を良くする。そのためには、テクノロジーや我々が持っている知識を総動員していくしかない」という気持ちです。
色々なことを様々な角度から見てお客様の立場に立ってできることをやる
—— 逆境の経験から得られた教訓があればお伺いできますか。
我々は料理人ではありません。ですから、「相手のことを知ることが一番大事」であると常に思っています。飲食でも小料理屋からお寿司屋さん、ハンバーガー屋さんとすべてのオペレーションが違う中、素人の私が20年間ずっと飲食店を営まれてきた職人さんにいきなり話しかけても、「あなたに何ができるのか?」という印象を持たれて当然です。そのような現場の職人さん達に信用してもらうには、常に努力をする必要があります。
実際に何をするかと言うと、お客様の飲食店に足を運んで、純粋に1人のお客さんとして食事をします。お客様の食事をいただくことで接点ができ、打ち解けていって、少しずつ我々の話にも耳を傾けてくれるようになります。そういう関わり合いを通じて、お店の状況や困りごとを相談していただけるような関係性を構築していきます。
他にも、私はいつも塩分濃度計や飲食用の秤を持ち歩いています。なぜなら、塩加減について、職人さんは感覚で調節できますが、素人の私は数字で見ないとわからないからです。そうやって素人ながらも職人さんと話す努力をします。すると、職人さんから、「素人なりに頑張ってるね。色々な角度から見てくれてるね」と好印象を持っていただけるようになるのです。
そのような細かいことを日々しっかりやらないと、「お店に最新の機会を導入しませんか?」と提案しても、導入していただけるお客様はほとんどいません。日々、色々なことを違う角度から見て、お客様の立場に立ってできることをやるのです。
また、当社の強みの1つとして、オフィスにキッチンを併設しています。ベンチャーでテクノロジーを作ってる企業の中では、とても珍しいことだと思います。実際に、自分たちのプロダクトを使ってみて、「本当にお客さんが使いたいものかどうか?」ということを、日々追求しています。
本質として「全てテクノロジーにすればいいわけではない」ということを理解する
—— 御社の経営理念である「テクノロジーとデザインで食の未来をつくる」についてお伺いできますか。
我々は外食コンサルタントではないので、お客様の店舗でメニュー開発はできませんし、コストカットもしません。ですが、お客様に合ったシステムやデザインを導入いただくことで、飲食店のプロであるお客様に、いい料理を作ったり、口コミを広めたり、接客サービスの質を上げること、より本質的なことに集中してもらうことができます。
ただ、「全ての仕事がテクノロジーになればいい」とも思っていません。例えば、老舗のお寿司屋さんに行って、そこでロボットがお寿司を握っていたとします。コロナ禍ですが、ロボットなら飛沫が飛んだり毛髪が抜け落ちる心配もなく、お寿司を握る手からの発汗もありません。ロボットならお寿司を握る精度も高いので、同じ握り方が再現できます。
ですが、やっぱり職人さんにお寿司を握ってほしいのです。なぜなら、職人さんがその魚を選んだ理由、仕込みのやり方、ネタを出す順番など、職人さんの経験がものを言う部分は、ロボットではどうしても再現ができないからです。バランスが大事で、本質として「全てテクノロジーにすればいいわけではない」ということを理解していなければなりません。
「現場のお客様が求めるものをテクノロジーに変換するとどうなるか?」を考える
—— 御社が求める理想の人材をお伺いできますか。
お客様ファーストの意識で、ちゃんと相手の立場に立てる人材です。「現場のお客様が求めるものをテクノロジーに変換するとどうなるか?」を考えるのですが、これが難しいのです。お客様の意見を聞いて、「テクノロジーで解決すべきか?現場のオペレーションで解決すべきか?」を論理的に考えて、テクノロジーに落とし込める能力が必要です。
例えば、「売上を上げる」という課題があったときは、客単価を上げる、お客様の層を変える、商品を変えるなど様々な選択肢があります。常に「本質は何か?、何がお客様にとって必要なことなのか」ということを、探求心を持って追求できる人と一緒に働きたいです。同じ課題でも、解決策はお客様の状況や時代、場所によって様々なのでそれをいろいろな角度から一緒に考えて頂ける方と仕事ができたらうれしいです。
「努力している」と思わずに自分を伸ばすことがとても大事
—— 仕事を楽しむコツがありましたらお伺いできますか。
ハードスキルとソフトスキルという考え方があります。ハードスキルは学歴や資格など、わかりやすいものです。ソフトスキルは努力できる力や人格だったり、なかなか数字には表れないものです。若い人は、ハードスキルを求めがちです。もちろんハードスキルも大事です。
しかし、社会に出ると学歴や資格などのハードスキルは、そこまで必要ありません。それよりも、社会に出てから「自分がどれだけ成長できているか」という実感がないと、どんどん
仕事が楽しくなくなってしまいます。
当社が「大切にする価値観」が3つあり、その1つに「成長」があります。若い人には、ぜひ成長できる環境を追い求めて欲しいです。もちろん、ワークライフバランスによる休息も大切です。休息の時間以外で、仕事が終わった後でも自然と研究をしたくなり、「努力している」と思わずに、自然に自分自身を伸ばすことがとても大事です。
若い人はハードスキルを求めがちですが目には見えないソフトスキルが非常に大切
—— 最後に、若い人や新卒の方へのメッセージをお願いします。
私も社会に出てすぐのころ、「あの職場は港区だからいい」「お給料が高い方がいい会社だ」「マーケティングの仕事はカッコイイ」など、考えていた時期もありましたが、やはりそれらは本質的なものではことが多かったと思います。
例えばマーケティングの部署に2人の若い人がいて、指示されたエクセル作業だけをこなす人と、「本当のマーケティングって何だろうか?」と自分で楽しみながら考えて成長する人では、同じ部署にいても将来が変わってきます。年齢を重ねたときの2人の能力の差は、手遅れになるくらい大きくなります。
仮に経営者になったとしても、マーケティングや営業、バックオフィス能力、カスタマーサービスなど、ソフトスキルが必要になります。若い人は、目に見えてわかりやすいハードスキルを求めがちですが、社会では目には見えないソフトスキルが非常に大切です。そこを見落とさずに働き続ければ、きっと未来は変わってきます。ぜひ頑張ってください!