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【株式会社eWeLL 中野 剛人】イノベーションで訪問看護の現場を変革。 国内シェアNo.1に至った秘話に迫る

2021/09/29

Profile

中野 剛人

株式会社eWeLL 代表取締役社長

1973年、大阪府枚方市生まれ。ジェットスキープロライダー(世界ランク2位)、飲食店経営、介護ボランティアを経て現職。レース練習中の事故で9日間意識不明となった折に看護師に命を救われたのを機に、、訪問看護師の業務を支援する事業を志し、2012年6月に株式会社eWeLL(イーウェル)を設立。当時、業界には訪問看護の業務支援システムがなかったので、既に世にあるものは活用し、まだないものは自分たちの手で創る理念のもと、誰でも簡単に使える業務支援の電子カルテ『iBow(アイボウ)』を開発し、業界シェアトップとなる。これまで全国的な集積は難しいと言われていた慢性期医療情報を全国47都道府県から集積。勤怠管理や保険請求代行など、訪問看護に特化した革新的サービスを次々と展開中の中野様に訪問看護分野での事業を始めた経緯と今後の展望を伺った。

業界の常識を覆した事業開始の背景

—— 事業内容を教えてください。

私たちは、在宅医療におけるIT技術と新たなサービスの開発および提供をしています。具体的には、在宅医療の中心的役割を担う訪問看護に特化し、訪問看護ステーション向けにイチから自社で開発した訪問看護専用の電子カルテを用いて、サービスとして提供しているのが主な事業です。

事業のご説明をするにあたり、訪問看護と、一文字違いの訪問介護についてお話しします。訪問看護は国が推進する新しい医療制度における中心的な役割を担っていますが、一般的には知られていないのが現状です。一方、介護や訪問介護は、老人ホームのTVCMや街中でよく目にするヘルパーステーションなどで知られており、ほとんどの方は訪問看護を知らないので、実際、役所の方と「訪問看護」の話をしていても、5分後には「訪問介護」に置き換わってしまうくらい、訪問看護は認知されていません。

なお、「訪問看護」と「訪問介護」の違いですが、「訪問看護」は国家資格を持った看護師、保健師、理学療法士などの医療従事者がサービスを提供し、その行為は医療行為にあたります。対象となる利用者も生まれたての0歳児から亡くなる看取りまですべての年代で、在宅療養の中でも専門性の高い医療サービスとして国からも高く評価されています。一方、「訪問介護」は、介護福祉士やヘルパーなどがサービス提供し、日常生活のサポートを行います。国の保険を使う場合、原則65歳以上の要介護認定者が対象です。(条件を満たせば、40歳から対象となるケースがあります)

また、訪問看護が扱う情報の重要性について、医療の領域は、外科手術などの急性期医療とその後の長期的な療養にあたる慢性期医療から成り、訪問看護は慢性期医療に該当し訪問看護で日々記録するカルテなどの情報は、患者の回復過程を記録した貴重な慢性期医療情報になります。

しかし、訪問看護の現場はICT化の途上で、全国の訪問看護ステーションの61.4%(※1)は紙に手書きで業務を行っており、極めて重要な慢性期医療の情報が活用の難しい紙カルテで保存されています。私たちeWeLLは、これは日本の医療にとって大きな課題であるといち早く考え、訪問看護業界にデジタルトランスフォーメーションを起こし、2014年から慢性期医療情報をデジタル化し保存してきました。

そのツールとして私たちが提供しているのは、保険請求を行うレセプトシステムだけではなく、訪問看護専用の電子カルテとレセプトの機能を併せ持つ『iBow』です。(https://ewellibow.jp/

看護師が手書きで行っていた書類業務を全てICT化した『iBow』は、複雑な訪問看護業務を網羅した高度な機能を備えるとともに、ITに不慣れな訪問看護ステーションでも簡単に使いこなせるよう徹底的にUI・UXを追求したシステムとなり、2014年にリリースし、全国47都道府県すべてで利用され、1,900事業所以上へ導入、訪問看護業界における電子カルテシェアは国内No.1となっています。(※2) 私たちは全国の訪問看護ステーションが独自に行っている煩雑な業務を、電子カルテで効率化し、合理的でストレスフリーな『訪問看護業務の標準化』を実現します。

また、セキュリティ面においては、紙のカルテの場合、持ち出して紛失および情報漏洩するリスクがあり、災害時には水没などで情報が失われてしまうリスクがありますが、『iBow』なら、政府が示す3省2ガイドラインを遵守しており、情報漏洩対策や災害時もサービス提供できるサーバー対策など、様々なリスクを想定して環境構築し強固なセキュリティで24時間医療情報を守っています。

さらに、地震、洪水、豪雨などの災害時も『iBow』は利用されています。被災後に、現場でまず必要なものは情報です。電話回線の不通、事務所の水没、道路の遮断などが起きた時でも、手元のタブレットで常にスタッフ間で情報共有・連携し、利用者の安否確認の情報収集ができるので、被災直後も看護を必要とする患者に対し、迅速で適切な対応を行えます。実際、夏場に豪雨災害に遭ったステーションでは、事務所とバイクが水没し、道路遮断による渋滞頻発のため、復旧までの数ヶ月間、猛暑の中自転車で訪問しましたが、『iBow』を使って事務所立ち寄りを無くし最小の移動となるよう工夫して訪問を続けておられました。

※1 一般社団法人全国訪問看護事業協会 2019年2月発表「訪問看護のICT化について」および2018年訪問看護ステーション数に基づく推計。手書きとICTの併用含む

※2 モバイルの訪問看護システムにおけるシェア 全国訪問看護事業協会調べ「令和3年度 訪問看護ステーション数調査結果」および「訪問看護ステーションにおけるICTの普及状況に関するアンケート」(調査期間:2018年4月~5月、調査対象:全国訪問看護事業協会会員事務所)に基づく推計。導入事業所数は2021年9月時点。

――なぜ、訪問看護に着目したのですか。

社会的に重要な役割を担う訪問看護は、現場の業務負荷が高い大きな課題を抱えています。訪問看護は他の医療分野と比べて特殊な領域で、医療保険と介護保険まったく異なる2つの保険制度を使用するため、その業務は非常に難しく、複雑と言えます。

また、2025年、日本はいわゆる「団塊の世代」が全員後期高齢者(75歳以上)となり、超高齢化社会を迎えます。国は、患者が病院ではなく住み慣れた地域で医療・介護を受けられるよう「地域包括ケアシステム」と呼ばれる体制を推進しており、訪問看護はその中核的な役割を担うと位置付けられています。これは、2014年の厚生労働省アフターサービス推進室の報告書でも明記されています。

このような背景から訪問看護は急速に必要性が高まっているにもかかわらず、担い手である看護師は慢性的に不足しており、現場業務は紙の書類に手書きする非効率な運用が未だ多くのステーションで行われています。

当社が創業した2012年当時、訪問看護業界ではシステムといえば保険請求を行うレセプトシステムばかりで、看護師の業務全般を支援するシステムは皆無でした。訪問看護師は毎日、患者さんの看護を行いながら膨大な書類を手書きで作成し疲弊している、私はそう感じていました。そこで、限られたリソースでより多くの患者をケアできるよう訪問看護業務を効率化すれば、大きな社会課題の解決になると考えました。

そのためには、手書きの書類作成をシステムに置き換えるなど訪問看護業務全般を効率化でき、ITが苦手な看護師も簡単に使えて、訪問看護が請求を行う医療保険と介護保険両方の法制度に対応し訪問看護の複雑な業務を網羅した高度な電子カルテが必要でした。

世の中にないものは私たちの手で創る。そう決意し、徹底的にUI・UXを追求して自社で開発したのが『相棒/iBow』です。

現場で本当に役立つシステムを追求

—— 訪問看護の現場で、『iBow』はどのように使われていますか。

“誰でも簡単に使える”をコンセプトとした『iBow』は、場所を選ばない直行直帰の運用や書類業務の簡略化、リアルタイムな情報共有が行えるなどにより、ステーション全体での新たな「時間」を生み出せ、限られたリソースでより多くの患者をケアできるようになり、看護ケアの質を向上させ、業務を標準化し経営を安定させ、訪問看護の運営に欠かせない基幹システムになっています。

私たちのこだわりの一つは、システム開発を外部へ委託しない自社での開発です。通常、システム開発の主流は、要件定義を行い開発費用をFixさせる受託開発の形式ですが、この形式では契約時に要件と費用だけが決まり、本来、開発者が向上心を発揮して行うシステムの使いやすさを左右するUI・UXの追求などは要件外になるので、私たちが大切にしている使いやすさはスポイルされてしまいます。だから、高機能で誰でも簡単に使えるものを創るため、自社での開発にこだわってきました。

これはシステム改善でも同じで、私は創業以前、ステーションがシステムを改善してほしいとベンダーに要望を上げても一向に反映してもらえない状況を見てきて、業界のこの状況を必ず変えようと決意して設立したのが当社です。

そして、業界の問題を解決する方法として、サブスクリプションモデルにもこだわりました。医療システムではイニシャルで高額な費用を支払うのが主流でしたが、私たちはサブスクリプションの【初期費用ゼロ、1訪問100円】で提供しており、これは開業したての訪問件数と売上の低い時期は低料金で、実際に『iBow』が活用されて業務を効率化し売上が伸びれば、規模に応じた従量値引きも行う、すべてのステーションに寄り添った料金体系になります。これはイニシャルで高額費用をいただくモデルと比べ、初期費用をいただかずにサービス提供するので事業としては難しく私たちのリスクが高くなりますが、本当に使えるシステムを提供すればお客様に納得して使い続けてもらえます。

なお、『iBow』は、訪問時間の自動記録など3つのビジネスモデル特許を取得しており、特許出願中の技術もあります。さらに、業界初のAIによる看護計画作成機能も搭載しており、新人看護師でもベテランと近しい書類を簡単に作成できるようAIの機械学習を進めています。訪問看護は看護学校での実習も少なく、病院での看護とも違い単独で訪問するため、新人教育は難しいのですが、訪問看護業務を標準化した『iBow』を日々使用するのは新人教育にも繋がっているとお喜びいただいています。

またコロナ禍において、『iBow』は訪問看護の感染リスク低減にも貢献しています。訪問看護師は『iBow』を使って自宅や事務所外で情報の閲覧・記録を行えるので、事務所内でスタッフが密集せず情報を共有し、直行直帰や時差出勤が可能となっています。

同じ想いを持つ仲間が集い、常にイノベーションを創造する

—— 質の高いサービスを提供し続けるには従業員の資質が重要になると思いますが、採用する人材の基準はありますか。

当社の入社面接には私も必ず参加しますが、採用基準の一つとして見ているのは、私たちがミッションとして掲げる「ひとを幸せにする」想いに共感しているかです。この「ひとを幸せにする」は、常に自分自身が物・心ともに調和のとれた状態を目指し、関わる人に喜んでいただき、感謝してもらえるよう自ら考え行動できているのかを意味します。

世の中が少子化により労働生産が減少していく中、私たちは常にイノベーションを創造し、システムやデータを活用して社会課題を解決して、多くの人から必要とされ続ける企業を目指しています。そのためには、同じ想いを持つ仲間が集い個々の力を結集し、大きな力に変えて事を成すのが重要だと考えています。

私たちと同じ想いの有志は、今すぐ行動してください。すべての人が安心して暮らせる社会の実現に向け、私たちと共にチャレンジしていきましょう。

株式会社eWeLL

設立 2012年6月
資本金 496,390,600 円 ※資本準備金含む(2021年9月現在)
売上高 非公開
従業員数 56名(2021年9月現在)
事業内容 訪問看護事業者向けにITを活用した業務支援サービスを展開。訪問看護専用電子カルテ『iBow』等の開発及び提供を行い、業務の効率化とより良い地域包括ケア、在宅療養の実現を支援する。
URL https://ewellibow.jp/ https://ibowkintai.jp/ https://ewell.co.jp/
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