新しい街並みを作り、豊かな生活体験を
—— 事業についてお伺いしたいです。
株式会社Lauraはコロナ真っ只中の2020年4月に創業し、車窓メディア事業を立ち上げました。車窓型のディスプレイ技術に、車載機器やセンシングデバイスと連動した通信システムを自社開発しており、タクシー会社と協業した屋外メディア事業として展開を進めています。乗客のいない空車時のタクシー車両が停車すると車窓に動画が自動配信される仕組みになっていて、実際の通行人数や視聴者データといった広告効果の測定も同時に行えます。
新しい屋外メディアで人の生活を豊かに
—— なぜ屋外広告で起業を決意されたんですか?
ものすごくレガシーでアナログだからです。屋外広告の一番の出稿理由はいわゆる「やった感」というやつで、例えば「渋谷駅前に大きな看板を出したら目立つからなんとなく効果があるだろう」という感覚のことなんですが、その意思決定の仕方が100年以上変わってないんですよね。
ですが、世の中の流れとしてはなんとなく効果があるだろう、という定性的な施策に予算を取ることが難しくなってきているので、「○円で○万人にリーチできるからこういう効果があります。実際効果がありました。」という価値が定量化されたデジタルなものでありながら、屋外広告の良さであるインプレッション効果の高いメディアが出てくるだろうと考えていました。
しかし、屋外広告は信じられないくらい規制が厳しいため、既存の屋外広告媒体社もほとんど手が出せない状態ということが徐々に分かったんです。さらにディスプレイ技術も10年以上アップデートがなく、媒体開発が進んでいなかった。だから、規制されてない場所を見つけて、ディスプレイ技術を掛け合わせたらいけるのではないかと思い、その日の内に自治体の広告課に相談しにいったのが始まりですね。そうしたら自治体の方もおもしろいと言って、乗り気で調べてくださいました。
――車窓メディアの特徴は何ですか?
まず斬新さですね。車の窓がディスプレイになっているという現象自体が新しいので、インパクトがあります。車の窓ならではの表現も可能ですし、車両がずらーっと並んでいるところに一斉配信することでビジュアルなシーンを作ることができる点は屋外広告の良さも活かせていると思います。
また、ドライブレコーダーのように車外の様子を観測し、マスキングしているので、個人情報を取得せずに実際の通行人数や視認率、性別・年齢といった属性データを測定することも可能です。
モデルとしてもタクシー会社に開発費用を負担頂く形ではなく、協業事業として広告収益の一部をリターンするサステナブルなモデルを採用している点がユニークかと思います。
――事業を通してどんな世界観を描いてますか?
私たちは窓に動画を映したいというよりかは、街と生活者がコミュニケーションを取れるような世界を実現していきたいと考えています。中国でOMO※1が進んでいるように日本でも5年後、10年後にはリアルな消費体験がデジタル化しているだろうと考えています。その時、屋外メディアとして重要なのは広告主と生活者のためとなるメディアとして機能しているかどうかです。
※1:OMO 顧客体験最大化のため、オンラインとオフラインを統合させること。
今は新型コロナウィルスの影響もあり、大きく変わる日常生活の中で、屋外メディアとしての最適解をどう導き出せるか、が勝負だと思っています。車窓メディア事業が単なるデジタルサイネージではなく、外部データと連動しながら人とコミュニケーションできるような国内初のDDOOH(ダイナミックデジタルアウトオブホームメディア)の成功事例となり得るか、という点に全てが懸かっています。
ゆくゆくは、街中のリアル店舗でのショッピングとオンラインでの購買行動がリンクすることで顧客体験が最適化され、個人の生活がより豊かになるそういった世界を目指しています。テクノロジーの社会実装により、10年後や20年後、子や孫の世代に残すべき東京らしい街並みや生活体験を実現していきたいです。
未開の地を切り拓く難しさ
—— 事業をする上で、苦労したことはありましたか?
最初の協業パートナー探しですね。車窓メディアのような前例がないものは、失敗したときのリスクがそれなりに大きいので、まずはやってみようというタクシー会社さんがあらわれませんでした。特にタクシー会社の代表電話は配車センターと繋がるだけで本社へのパスが無かったりするので、結構な初期で都内の無線基地局16グループ全てに断られてしまったんですよね。
それでも何か繋がりそうな方と毎月100人お会いするということだけ決めて、色々と動いていくうちに少しずつ関係値が広がっていきました。直接事業に繋がったのは100人に1人か2人も居なかったんですが、何も持たない私を好意一つで応援していただいた人のおかげで今は何とかプロジェクト化しています。未開の地の人との繋がりを得ることが1番苦労しました。
事業を起こすのは、愛しい次の世代のため
—— 起業のきっかけをお伺いしたいです。
父も祖父も経営者だったので、身近なところに経営者という選択肢があったことは要因の1つです。いつかは自分の事業を持ちたいという想いをどこかで持っていたんだと思います。
より大きな要因は前職で大企業の新規事業案件に多く携わる中で、自分がやるしかないんだ、という事に気付けたからですね。
どういうことかというと、20代の私が大企業で新規事業を立ち上げれる可能性がとてつもなく低い、ということです。新規事業をやってる人って実は山のようにいるんですが、ほとんどは予算もつかず、事業化もできず、収益化はさらに難しい、という現実を嫌というほど見てしまったんです。今は違うかも知れませんが、事業を作って責任を負うのは個人なのに、意思決定を行う主体が会社にあるので、実績の無い若手が事業責任者になるという事自体のハードルが仕組みとして高かった。
それでも、人が作った事業にお金と雇用が集まり、世の中がより良くなるという活動がダイレクトにできる新規事業というものに魅力を感じてしまったので、じゃあ覚悟を持ってやりきろう、という思いで起業しました。
また、ライフゴールとしても次の世代に残る事業を残して死ぬべきだと思っていました。これをいうと勘違いされるんですが、ちっちゃい子ってすごくかわいくて愛しいじゃないですか。実は中学生くらいのときから幼稚園の先生になりたかったくらい私は子どもが好きだったので、純粋に私の子ども世代が過ごす世界をもっと幸せにしてあげたかったんですよね。
でも、日本は人口の中央値がすでに48歳で、政治も財布も握っているのはほとんど60歳以上、10年後、20年後はもっと高齢化する中で、その時生まれる子どもたちは本当に幸せなのかな、と思ってしまったんです。そう考えたときに、何もせずにただ悲観している自分がもどかしくて、自分の手で何か未来に残るものを作るべきでは、と思うようになりました。
私は26歳で起業したのですが、それがスキルやキャリアとして最適な年齢だったとは自分でも思っていないです。ただ、その時に居た環境がたまたま10個以上年上の人ばかりだったので、結婚して子どもも産まれると価値観が変わる、という事も分かっていました。だから必然的に事業を起こすというゴールに対して、最適なアプローチとして起業という選択肢を今取るべきだと思い、意思決定しました。
今やるべきことに懸けよう
—— 最後に、若者へのメッセージがあればお願いいたします。
学生のうちは何かおもしろい事をやりたいとか、世の中をより良くしていきたいと思っていても、具体的なやりたい事がなかったり、やる気が出ずだらだらしてしまうことが多いと思います。
残念ながら、一生かけてこれがやりたい、と思えるようなものが見つかることは普通に生きているとほぼありません。私も今思い返すと仕事が楽しいと思ったことはほとんど無くて、将来の自分や目の前の人のためにやる必要があったからやらざるを得なかった事のほうが多いです。
ですので、もし何か前に進みたいと思っているのなら、少しでもやりたいことや、これは今やるべきだ、と思えることを今日中にひとつ見つけて、やると決めるのが良いと思います。
そうしたら、その決めたことを必ずその日中にやる。それは何か調べるでも、誰かに連絡するでも、人に会うでも、何でもいいから決めたことをやってみるんです。
やりたいことを見つけてその日中にすでにやっている状態を作る、それを続ければ少しずつ目の前の景色が変わってくると思います。漠然とぼやいているだけでは何も変わらないですから。
その中でもし、私にできることがあれば、SNSのDMで良いのでいつでもお声がけください。
おそらく明るい話ができると思いますので。