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【WAmazing株式会社 加藤 史子】「やばい」と思ったら早く動く、コロナ禍でとったアクションとその考え方とは

2021/02/05

Profile

加藤 史子

WAmazing株式会社 代表取締役CEO

慶応義塾大学環境情報学部(SFC)卒業後、1998年に(株)リクルート入社。 「じゃらんnet」の立ち上げ、「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなど、主にネットの新規事業開発を担当した後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」に異動する。国・県の観光関連有識者委員や、執筆・講演・研究活動を行ってきたが、「もう1度、本気のスケーラブルな事業で、日本の地域と観光産業に貢献する!」を目的に、2016年7月、WAmazingを創業する。同社は「日本中を楽しみ尽くす、Amazingな人生に」をビジョンとして掲げ、インバウンド向け観光プラットフォーム事業を行なっている。

新型コロナウイルスの中で始めた新規事業

—— 新型コロナウイルスを受けて始められた新規事業について教えてください。

新型コロナウイルス感染拡大以前のメインサービスはオンライントラベルエージェント(OTA)と呼ばれる業態でした。訪日外国人旅行者の方にホテルやアクティビティの予約、チケットの購入などのサービスを提供し、手数料として流通額の10〜15%をいただくという旅行業のような事業です。

しかし、コロナ禍で外国人旅行者が来なければ、消費が生まれないため、私たちの売り上げも上がりません。1月と4月の売り上げを比較すると98%ダウンになりました。2月中旬頃から危機感を持っていたので、そのあたりから新規事業を立ち上げました。

その時、最初に立ち上げて、今もメインで推進しているのは自治体や地域との連携事業です。具体的には、マーケティング調査やインバウンド戦略立案のようなコンサルティング事業です。また「翻訳およびローカライズ受託事業」は弊社の外国人メンバーの得意なことを生かして、彼らの雇用維持を第一の目的として開始しました。

大企業に属していない自分とどこまで本気でやってもらえるか

—— 創業した際に、大手企業に話を聞いてもらうために心がけていたことはありますか?

私自身がリクルートで18年くらいサラリーマンをやっていましたので、その中で培っていた人脈というのが大きかったです。ですが、当然、リクルートができることと、2週間前に立ち上がったばかりのベンチャーができることって差があります。大企業に所属していない自分と、どこまで本気でやってくださるのかなっていうのが分かりませんでした。それでも、まだ計画プランしかない私の話を成田空港の役員さまは熱心に聞いてくださり、SIMカード配布用マシンの設置も後日、正式に決まったのです。大企業でもベンチャーでも、企業提携に大切なのは、相手方の事業やビジネスモデル、そして課題に感じていらっしゃることをしっかりと理解し、相手方にメリットのある提案をすることや実行力を持ってやり遂げ信頼関係を築くことが大事だと改めて感じました。

 そもそも、起業のきっかけですが、私は起業したいともともと考えていたわけではなく、やりたいことや作りたい世界を目指すため、その手段として起業したほうがいいと考えたました。事業の成長に人材や資金といったリソースは必須ですが、起業した方が人もお金も自由に集められるかなと思ったのです。

 私はリクルートで働いていた頃、新規事業の立ち上げに多く携わりました。企業内起業みたいなものです。大企業の中とはいえ、新規事業に潤沢な人材や資金のリソースはありません。最初は少人数で、1人が専門に拘るのではなく、どんな仕事も拾って何役もこなすような感じです。そういう意味で、スタートアップとして起業した時も働き方は、ほぼ同じだっため、起業で働き方が変わったということはありません。
――新規でお仕事をいただく上で信用は大切だと思いますが、信用を生み出すためにしたことはありますか?

 まだ社会には何もないものを、「これから作ります」と言っているわけですから、全員が信じてくれたわけではありません。特に、大企業でも中間管理職の人は、既存の事業の利益を着実に上げていくというミッションを持っていることが多いので、その立場の方々にとっては、新規事業の提案はリスクだと感じられることが多いようです。

ただ、社長や取締役といった経営層になると、既存事業の改善以上に、新たな売上の源泉を探していることが多いので、話を聞いてくれることが多いです。リクルート時代には顧客対応の方法として「それぞれの立場で見る視点が違うので、実際に一緒に事業をやりたい相手企業の役員、ミドルマネジメント、現場など全ての人にそれぞれに適した話と提案をすること」と教えられました。

やる気さえあれば手はいくらでもある

—— 新型コロナウイルスのニュースが入ってきた1、2月のあたりはどのようなことを思いましたか?また、どのようなアクションを取られましたか?

WAmazingの顧客構成は、5割が台湾からの旅行者、2割が香港からの旅行者、人、2割が中国メインランドからの旅行者、、残り1割がシンガポールやオーストラリアなどの英語圏からの旅行者です。 そのため、1月に出された武漢からの団体旅行者の制限という措置は、中国大陸から来る2割の顧客減くらいかなと考えていました。ですが、その後に日本でもダイアモンド・プリンセス号などを契機に感染が広がり始め、2月中旬に台湾から日本への渡航注意レベルが1とだされたとき、これは世界から日本が旅行先として危ないと認知されていることを示しますので、非常にまずい事態だな、と思いました。

 2月末の時点で、3月からの新規採用を一旦止める決断をしました。業務委託契約の方も何人かいたので、2月末の時点で面談をして、3月末にて契約終了にしたいとお話をしました。3月中旬には役員報酬もゼロにすると決めていましたし、4月中旬には5月からの一部の社員の出向や休業、4月末でのオフィスの全面退去も決めて大家さんに退去届を出しました。2月の中旬ころから、これは長引くということを前提に考え、決断と行動をしていきましたね。

――続々と観光業を撤退する会社様や廃業に追いやられた企業がたくさんある中で怖さはありましたか?

 危機感はありましたが、わけのわからない怖さというのは、ありませんでした。やるべきことはシンプルです。もともと内部留保資金が大量にはないベンチャー企業が売上急減となれば、「キャッシュの確保」が最重要課題です。キャッシュを確保するには、入金を増やし出金を抑えることしかありません。入金については、売上が確実にあがる新規事業をなるべく早く立ち上げること、そして融資や株式などで資金調達をすることです。コスト削減だけでは限界があり100人以上というチームを維持するには資金調達をしないと持たないです。リストラはしたくないなというのがありましたので、どうやって資金を集めていくか、2、3月から本格的に動き始めました。コロナ禍が始まってからの半年はコストダウンしながら資金調達しながら、新規事業やりながらで非常に忙しかったかなと思います。

 心が折れかけた時は一度もないです。折れないようにしていたという方が大きいと思います。シリコンバレーの有名なベンチャーキャピタリストであるPaul Grahamのスピーチに、「スタートアップが死ぬときには、公式の理由はいつも資金切れか、主要な創業者が抜けたためとされる。両方同時に起こる場合も多い。しかしその背後にある理由は、彼らがやる気をなくしたためだと私は考えている。」という言葉があります。

 やる気さえあれば打ち手はいくらでもあるんですよ。あと、時間ですね。これまで、「時間さえあれば、何とかなるが、もう遅いよ」というベンチャー経営者の話をたくさん聞いてきました。ですので、やばいと思ったらものすごく早く動くことが大事です。時間さえあれば色々な手段が取れますが、時間が過ぎるとどんどん選択肢が少なくなるんです。危機対応においては意思決定に時間をかけてはダメです。

 もちろん意思決定のためには深く考えないといけませんが、大切なのは○月○日までに結論を出すという締め切りを作ることです。例えば、4月10日までに資金調達の目処が立たなかったらオフィス撤退は決めるとか、意思決定の締め切りを設けることです。そうしないとどんどんピンチに陥っていきます。焦るのと悩むのは時間の無駄でしかないので、「焦ること」「悩むこと」は一切やらないようにしています。

 基本、打つべき手というのはシンプルです。コストを下げること、新規事業を立ち上げて新しい売り上げを確保すること、資金調達をすることの3つです。これらについて、打ち手を具体化して高速に実行してランウェイ(企業寿命)を伸ばしながら、いつか来たるインバンド需要回復期に備えることです。訪日旅行者需要は必ず回復するので、WAmazingはプラットフォームサービスをあきらめたことはありません。資金調達の際には、それに対する確実性が高いという印象を与えられるよう、話し合いを続けていけば理解してくれる株主は現れます。

計画は悲観的に、気持ちは楽観的に

—— 逆境経験から得られた教訓はありますか?

計画は悲観的に、気持ちは楽観的にです。計画はワーストケースを想定して立てるべきものです。そうしないと、計画したよりも事態が悪化するとパニックになってしまいます。

 楽観的にというのは、「明るい未来を信じる」に近いです。やはり、トップが悲観的だと従業員は会社や事業の明るい未来を信じることができずに辞めてしまいます。未来を悲観している人にはついていけないですし、未来を悲観している人に投資家はお金も出さないですよね?未来を信じている人にこそ、一緒にその未来を実現するために、ついていきたいとものだと思います。

――もともとメンタルは強い方だったんですか?

 リクルートは比較的メンタルを鍛えられる会社なのですが、仕事上で何度かメンタルの危機は経験しています。それで、メンタルのコントロールができるようになったかもしれないです。

 全てのことは「経験から学ぶかどうか」だと思います。経験をして自分が変わらなければ、同じ失敗をしたり、同じことが起きて同じように凹んだりしますが、それって成長も進化もしてないんです。だから、PDCAを回しながら、螺旋状に進化していくことができれば強くなれると思います。

起業は行きたい場所へ行くための乗り物の1つ

—— 学生時代、やっておいて良かったことややっておいた方が良いことはありますか?

よく遊んでいましたね。’例えば、親に成人式の着物を買うと言って50万円を貰い、そのお金で航空券を買って、南米を1ヶ月くらいバックパッカーしました。だから成人式は着物はきられず、普通のワンピース来て参加しましたが、やはり晴れ着を買うより、南米バックパッカー旅行では良い経験ができたと思います。なので、学生の皆さまも、勉強はもちろん、色々なバイトしたり、旅行したりすると良いと思います。大人になると家族ができたり、仕事があったり、あまり自由に時間を使ったり自分のために行動することができなくなります。

自分一人で自由な学生時代に世界中周るのもいいですし、30種類くらいの職業体験するのもいいですし、何日も徹夜して勉強するのもいいです。就職活動で語れる経験を積もうとか、視野を広げようとか思わずに、自分が好きなことを好きなように突き詰めてやるのが良いと思います。

――最後に、若者へのメッセージをお願いします。

 私の考えですが、起業は手段です。自分がやりたい仕事に対して大企業がやる方が向いていれば、私は喜んで大企業の社員をやれるタイプなんです。起業ってやっぱり楽な道ではないので、もし漠然と起業したいと考えているのであれば、起業したいというモチベーションがどこにあるのかを考えた方が良いかなと思います。

 かっこいいからとか、有名になりたいからとかであれば、いきなり起業するのは、あまりおすすめはできないです。なぜなら起業に逆境はつきもので、その時に折れてしまうからですね。起業の動機に貴賤なし、ですが、もしファッション的に起業に興味があるならば、1度、大企業で経験を積んでから独立でもいいかもしれません。ただ、こういうサービスやりたいけど、やっている大企業が1社もないとか、すでにあるサービスだけど、自分ならもっとうまくやれる感覚があるとか、そして、それを今すぐやったほうがいいと思うならば、手段としての起業をすぐ考えても良いと思います。起業は行きたい場所へ行くための乗り物だと私は思っています。

WAmazing株式会社

設立 2016年7月
資本金 24億5,242万円(資本剰余金含む)
売上高 非公開
従業員数 92名
事業内容 インバウンド向け観光プラットフォーム事業など
URL https://jp.wamazing.com/snow/ https://corp.wamazing.com/recruit/ https://corp.wamazing.com/translation/
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