身体が弱かった幼少期
—— 幼少期のお話をお聞かせください
わたしは生まれつき、体が弱く、家で過ごすことが多い幼少期を過ごしました。成長とともに少しずつ体も丈夫になりました。
――幼いころからそのような普通でない経験をしてきたから、精神面で鍛えられたのでしょうか。
それもあるかもしれないですが、そもそも普通っていうのはあまり意味を持たないと思ってます。普通、常識といわれても、常識ってその人の価値観によりますよね。法律に違反することは良くないですが、常識にとらわれないメンタルの強さはあるかもしれません。
現代の社会では、大学に行って就職するのが普通だと言われますよね。当社にも様々な学歴のバックグラウンドを持った人がいます。良い大学を出たから仕事がすごくできるとか、中卒だからダメとかいうわけではないです。大学に入っても、無意味に4年間を過ごす人も多いじゃないですか。大事なことは、そこで学んできたことはもちろん、そこでどんな時間を過ごしてきたか、だと思います。
働きたくても働けなかった人と仕事をつなぐ事業
—— 経営されている会社、キャリア・マムの事業内容についてお聞かせください
当社はアウトソーシング(会社が業務の一部を外部に委託すること)による業務支援が主な事業です。業務委託に対して、キャリア・マムの会員がチームで業務を推進しています。会員は現在10万6000人いて、そのうち大体3000名くらいがアクティブワーカーです。この3000名は、主に働きたいけれども家庭の事情等様々な条件の中で会社勤めや一定期間の仕事をすることができないという人たちです。そのような、働きたくても働けなかった方々に業務を依頼しています。例えば通常のHP制作会社ってプログラマーとデザイナーは別です。片方だとHPをつくるにしてもプログラムは書けるけれどもデザインセンスがないということが起こりますよね。これをキャリア・マムが受け請うと在宅ワーカーの方がデザイン、別の在宅ワーカーの方がプログラミングの担当とアウトソーシングしても一括で受け追うことができるので、お客様は発注するだけで良いということになります。
基本的に社内コストよりも外注コストの方が安いですし、品質が安定して、納期も守れて、複数の人がやるけれども均質なマネジメントができるのでキャリア・マムにお願いをされるのかなと思います。東京にいなくても、パソコンとインターネット回線があれば、どこでもできます。そもそも自分の住んでいる場所で働けないって不自由だですよね。
赤字よりもつらかった裏切り
—— 今まで経験した困難や失敗についてお聞かせください。
今まで、本当に会社を閉めようかなと思ったのは1回だけです。当社が有限会社の頃、ある人に騙されて、お金が入らなくなったことですね。
取引先の取締役が、全部返済しますって言った翌日に連絡が取れなくなりました。本当の話ですけど、その人がマグロ漁船に乗って全部弁済すると言って、行方不明になりました。なので、相手の会社に対してお金を払ってくださいという裁判をすれば良いのではと知人の弁護士の方にアドバイスされました。私は離婚経験者で、当時の旦那は優しかったのですが、なぜか旦那が相手の会社側に立ってしまったのです。彼に「裁判をやめろ」と言われて、意見が食い違い、何を考えているんだろうと思いました。
会社のお金が無くなってしまい、当時の経理の子が指定の期日にお金を払えないことを連絡しないといけませんでした。でも、「気持ちが折れてできません」って言われて、私が連絡をして、直接出向いて土下座をしました。これが、私が人生で2回土下座しているうちの1回になります。今まで、多額の赤字も出た事もありましたが、この裏切りが一番きつかったです。
持っていないことを嘆くよりも、持っていない中で幸せを見つける
—— この経験からどのような教訓を得たのでしょうか。
嫌なことや悲しかった、辛かった記憶は、実はあんまり覚えていないです。リカバリーすることに意味があると思うので、どういう教訓があったかと言われると難しいですね。神様は乗り越えられない試練は与えないですからね。
自分のセミナーで『振り子の理論』って呼んでいるのですが、自分にすごくしんどいことが降りかかってきた時って、すごくラッキーなんです。悪いことが起きたとき、人はそれを元に戻そうとして成長します。そういう意味の振り子です。
人間ってなぜ自分の主観を変えられないのかと言うと、今いる場所がすごく心地よいと思ってしまうからです。例えば、自分が整形してスレンダーでナイスバディになったり、すごく儲かって夢のような生活になったら、絶対にその日から漠然とした不安が始まるんですよ。いつかまた昔みたいに醜くなるのではないか、とか、誰かに裏切られるのではとか、絶対幸せじゃない瞬間が来ます。だから何も持ってなければ何も失うことはないということです。失うものはないということは思い煩うことがないのです。持っていないことを嘆くよりも、持っていない中で幸せを見つけて、自分が何を社会につないでいけるのかということだけを考えて続けていくべきです。25年の間で、トラブルや失敗した時にそう思えるようになりました。
私は、ものすごく勝ち気で、ものすごく強気なので、第三者から見たら自分とは、あまり友達になりたくないと思います(笑)。昔はあいつに負けたくないとかありましたけど、今は自分の身の程をわきまえるようになったからか、天狗にならなくなりました。私は自分をすごいなと思ったことはそんなになくて、いつもみんなに助けてもらわないと前に進めないから、どの人の言葉も一生懸命聞くようになりました。
———そう変わっていったきっかけは何だったのですか?
ある年に毎月少しづつ赤字を出し続けていました。でも、私だけは何とかできると思っていて、盛り返せると信じていました。毎月赤字で一年後最終的に黒字になるわけがないのですが(笑)
自分は違うと本気で思っていました。結局赤字で、できると思っていたことができなくて、初めて会社を売ろうかどうしようかと考えました。でも「お給料はいらないので、このままやらせてほしい」と言ってくれた社員が出てきました。今まで私の力で会社は維持できているという気負いがあったのですが、自分だけでやれていたわけじゃないのだと気づきました。そこから他者の大切さがよりわかるようになりました。
学生時代アナウンサーもしていて、オーディションもよく受けていました。そこに行くとよくわかるのですが、アナウンス技術だけでなく、容姿とか、なんとなく1番の子ってわかるんですよ。下手だけど綺麗だから気に入られるな、とかです。自分のポジションがわかるわけです。女性だと年齢が上がると見た目の価値が下がると思っている男性ディレクターが多かったです。人間の価値ってそこではないと理解していても、他人が評価するものが価値を決めてしまいます。でも人間はラベルじゃなくて中身だなと思いました。純粋なもの、本物は最後まで残るけど、混ざりもの、偽物はいつか弱い部分が露呈して崩れてしまいます。ですので、ピュアであることが求められていて、その上でどう研鑽していくのかということが重要です。
こうしていろいろな経験をして、あまり他者と比べなくなった時から、マイペースで自分はこれでいいと思うようになりました。これがいいというか、これしかやれないから自分の昨日、今日、明日を比べる、明日が少しでも今日より成長するようにと考えています。だから他人がどうでもいいんです。私は自分の今日と明日には興味があるのですが、過ぎてきた時間には興味がないです。こういう考え方をするようになって楽になりましたし、強くなりました。
損得ではない生き方を
—— 若者へのメッセージをお願いします。
私は極力、嘘が無いようにしています。自分の言葉に嘘をつかないということです。でも全て本当のことを言ってしまえばいいってわけでもないので、そこが難しいですね。自分にとってそれは大したことのない一言でも、相手にはすごくショックだったりとか、うまく真意が伝わらなかったりすることがあると思います。言葉って口から出たら元に戻せないんですよね。言い過ぎたって思って自分で消しても、相手のノートには残ります。自分の気持ちが収まるように真実を伝えることは控えなければいけません。
私は自分の子どもには、「他人のためにつく嘘はいいけど自分が怒られないようにするためにつく嘘は良くない」、とよく言います。自分が怒られないためにつく嘘は良くない。自分の気持ちを収めるために本当のことをいうのは、自己満足でしかないです。言葉が真実と愛情で満ちているかどうかということが、この歳になってようやくわかってきました。
今の若い子たちはどんどん賢くなって、人生で得する方法とかいつも考えていますよね。でも、私は「本当に馬鹿なことを言って!」っていうくらい大きな夢や野望を話している人の方がいいなって思います。人間ってせいぜい生きても100年なので、いつも損得で動いていると、すごく大事なものを見失ってしまうような気がします。私は、選択肢があったときに損得ではなく再現性が低い方を選んだほうがいいと思います。よく言う言葉で、結婚式より葬式を優先しろ、と言う言葉があります。例えば結婚式って、今の時代だと何回かする可能性があるけども、葬式は必ず一回きりですよね。少ないチャンスをいかに活かすかで、人生が面白くなると思います。一度きりの自分の人生、大いにいろいろな経験を自由に楽しみましょう!