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【メディカル・エイド株式会社 松井 英樹】何が起こっても想定内で済むように準備と調査を怠らない

2021/01/27

Profile

松井 英樹

メディカル・エイド株式会社 代表取締役

関西大学卒業後、大阪の大手服飾付属商社の海外事業部に就職。大手服飾付属商社の海外事業部に就職。3年後、繊維製品の海外での企画・製造・輸入の会社を起業する。2004年1月、メディカル・エイドを設立、代表取締役社長に就任。同社はペースメーカ・ICD等電磁波防護服とその技術を応用した電磁ノイズ対策製品やサービス事業と銀イオンシートによる抗ウイルス・抗アレルギー対策事業を展開している。そんな松井氏が想定外の事態を乗り越えるためにとった手段や松井氏の考える会社経営について伺った。

医療や技術を通じて世の中の人々を救う

—— 事業内容について教えてください。

ペースメーカ・ICD等装着者日常生活用具、医療用電磁防護衣、EMC(電磁両立性)対策製品、一般用電磁波防護用品、銀イオン除菌・消臭製品などの研究開発、製造販売を行なっています。

近年、携帯電話などの無線電波通信機器やIH調理器具、盗難防止ゲートなどの低周波磁界を発生する機器が日常生活の中で増え、ペースメーカ・ICDに影響を与える不安が増している中で、ペースメーカ・ICD植え込み患者様が、制限のない日常生活を送られることを願い、1997年より電磁波防護服の研究開発に取り組んできました。

本格的なペースメーカ・ICD等電磁波防護服の開発をするにあたって、多くの研究者の方に参加していただく必要がありました。そこで大阪産業技術研究所相談し、2002年1月に研究所の技術者の方と、近畿大学工学部の先生、大阪医科大学の先生との産官学の共同プロジェクトチームを結成し「ペースメーカ・ICD等電磁波防護服の開発」をテーマに厚生労働科学研究費補助金給付に応募しました。こちらの研究補助金は補助金の中でも最難関と言われておりましたが、2002年7月に採択され、本格的なペースメーカ・ICD等電磁波防護服の開発を始めました。

当初、ペースメーカの製造元や工学系の先生や技術者などの専門家からは「不可能ではないか。電磁波を完全に防ぐことは防護服ではできないであろう」と言われたました。

できないと言われたものをどうしたらできるか、机の上の議論ではなく、個々の事案について、一つひとつ実証していきました。

1つめの課題は電磁波を遮蔽する素材の開発です。電磁波を遮断(反射)するというのはどんな金属でも可能ですが、衣服で使用する場合、軽量で耐久性、通気・放熱性、安全性が課題となります。弊社が日米で特許を取得した「MGネット」は銀をコーティングした繊維をハニカム状(六角形)に編んだメッシュです。六角形がループ構成されており、折ったり曲げたりしても銀が剥離しないため耐久性が高く、軽量、通気・放熱性、安全性と言ったすべての要件に適合しおり、課題をクリアできました。

2つめの課題は低周波磁界を遮蔽する素材の開発です。ペースメーカは携帯電話等の高周波だけでなく、磁石や電気設備やIH調理器などから発生する低周波磁界でも誤動作するのですが、通常は5mm厚以上の鉄板が必要で、薄くて軽い素材で磁界を遮蔽するのは困難な課題でした。弊社が開発し特許を取得した「EMSパネル」は静磁界から数十GHzの広帯域で遮蔽性能があります。厚さ0.7ミリで、磁性材やアルミフィルムなどを13層も手作業で重ねることによって、課題をクリアしました。

3つめの課題はペースメーカの誤動作を防止することを実証や評価するための試験方法や人体ダミーなどの装置の開発です。これらは研究プロジェクトチームで共同開発して、弊社製品を評価・改良することができ、こちらも課題をクリアしました。

3つの課題をクリアして、2005年にようやく薄くて軽くて耐久性の高い、ペースメーカ・ICD等電磁波防護服を生み出すことができました。その他にも、MRIや内視鏡検査用の防護服、パルス爆弾テロ対策用の袋、折り畳みのシールドテントなども開発しています。

さらに、他の会社や国からも、「うちの製品や施設がペースメーカ等に影響を与えるか試験してくれ」と頼まれることが多くあり、電磁界調査事業が今では一つの事業となっています。

また、純銀メッシュ「MGネット」は銀イオン触媒として高い性能を持っており、マスク内に使用するとマスク内外のウイルスや細菌を除菌し、花粉等のアレル物質を抑制し、臭いの原因物質を除去し消臭できます。 現在、空気・飛沫感染予防の医療機器承認に向けて治験臨床を進めています。

良い製品は完成したが売る方法が見つからなかった

—— 過去の困難な体験について教えてください。

会社でベンチャーキャピタルから出資を募り、医療機器商社の大手から出資金を合計2億円集めました。そのお金で研究開発を行い、良いものが出来上がったので、実際にペースメーカを使用されている方に案内を行うことになりました。

ですが、その時に個人情報保護法が障壁になりました。2003年に改正されて、2005年から施行されたのですが、うちの商品が完成して販売することになったのが2005年でした。

医療機器商社がペースメーカ装着者リストを持っていて、10万人くらいのデータが載っていたのですが、第3者がこの情報を利用できなくなってしまったのです。これによって、ペースメーカ装着者に案内できなくなってしまいました。

打つ術がなくなり、直接病院に持って行き、紹介してもらおうとしたのですが、医療機器ではないため、病院からは案内してもらえませんでした。ここで、当初の事業計画は行き詰まってしまいました。色々な販路を試したのですが、有力な手段を見つけられず、売りようがないという状況でした。

さらに福祉用具を購入するときには補助金が出るのですが、その頃、福祉用具の採用を決める管轄が国から市区町村に移って、各市区町村単位で採用不採用を決めるようになりました。新しい福祉用具を採用してもらうには患者さんが市区町村に直接掛け合わなければなりませんが、実際問題15年で10件ほどの自治体が認めているだけです。

このように補助金もなかなかつきにくい状況ですので売り上げも上がらず、株主からも文句が出て、私は一旦代表を降ろされてしまいました。

そこで私はインターネットに目をつけて、ネットでのプロモーションと販売にシフトしました。また、ペースメーカ装着者さんを探すのは難しいので、一般向けに電磁波関連で必要な製品をインターネットで販売し始めました。

そうこうしているうちに会社にあった2億円がなくなっていったのですが、そうなってきた時に、私が持っていた別会社で発明した美容用品がヒットして、そちらでは利益が出ていました。この資金で、会社の株を買いました。以前は過半数の株を所有していなくて社長を降ろされたので(笑)

私の次に立った社長が降りることになり、私が社長を引き受けました。復帰してからは、本格的にネットを使った販売を開始しました。現在では、営業はほとんど会社のホームページやECサイト経由で、売り込みなどはほとんどしておりません。今年からは海外向けにもサイトを作って販売していく予定です。これによって弊社製品のようなニッチで特殊な製品でもグローバルマーケットになれば、売上利益を拡大することが期待できます。

また、なかなか儲からない時に苦労して、その頃から色々な形でできるだけお金を使わないようするため、会社のシステムをIT化しました。大手企業よりも早く仕事の効率性を高めて、少ない人数で回せる仕組みを作りました。アウトソーシングを活用して人件費や設備運営などの固定費を下げて、利益を生みやすい環境を作ってきました。

コロナ禍でzoomの利用なども進んでいて、これからは時間や場所も関係なくビジネスチャンスを広げていけます。5G、グローバル、ネットワークの3つが融合されていくと、弊社でも新しいビジネスがどんどん生まれていくと思います。

予測できない状況でも会社が維持できる経営を心掛ける

—— これまでの経験で学ばれたことはなんですか?

今までの経験で学んだことは、制度や法律は先に調べて、将来どうなるかということをきちんと予測・想定しないといけないということです。どんなことが起きても想定内で収まるように準備や調査を怠ってはダメだということです。

当社に出資した企業には大手医療機器商社の上位3社も含まれていましたが、結局は自分たちでインターネットを使った販売で結果を出しました。人をあてにしてはダメで、全ては自己責任でやらなければならないです。協力を得るのは良いけれど、それがダメになった時に自分までこけてしまうようなビジネスをやってはいけないということです。

物事には地合いというのがあって、良い時もあれば悪い時もあります。突然コロナみたいに災難が起きたり、バブル崩壊みたいな突然の経済状況の変化も起こったりと、予測できないことは必ず起きます。その中でも会社が維持できるような仕組みとその時の備え、経営を心掛けることが大事です。

誠実に誠意を持って働くこと、やったことは返ってくる

—— 起業を考えている方へメッセージをお願いします。

経営者になるなら会計学やマーケティングなどを含めてしっかり勉強することです。理系であっても研究や開発だけでなく、企業経営できるような最低限の知識が必要です。企業経営は数字なので、ある意味理系です。そういう点で、理系の頭を持っていないと企業経営はできません。

私は大学を2年間休学して、若気の至りで(笑)ネットワークビジネスの仕事をしていました。その会社にリクルートされ、幹部社員として働いていました。そこで色々と学んで「起業するためにこういう勉強をしよう」と思い、大学に戻りました。英語を学んだり、ワールドトレードを専攻したり、会計学やマーケティングをしっかり勉強しました。

すぐに大学院に進学するのもいいけれど、1度社会に出て実際に2、3年働いてから行くのもありだと思います。そうすれば社会的な経験も積めるし、どうすれば自分の研究が社会の役に立つのかも見えてきます。

――最後に学生へのメッセージをお願いします。

起業して成功するということは困難なことです。特に日本では社会制度的に難しいところもあり、起業しにくい環境です。なので、もし起業するのであればリスクを念頭に置いた経営をする必要があります。リスクには、金銭面、人材、時代の流れなど色々なリスクがあります。これらのリスクを最小限にすることを心がけることです。

最初の立ち上げがうまくいっても、3年以内で潰れることころが多くあります。それは、少し調子が良くなった時にそういうリスクを負ってしまうためです。どんなに会社が大きくなろうが、リスクを負うのは間違いです。いかに自社のリスクを小さくし、周りに分散させていくかが大事になってきます。

今は、5Gやインターネットを使用した、新しいリモートやクラウドビジネスのチャンスです。これはライバルも同じことなので、アイデアだけでなく、多くの人脈や人材を得て、多くの人を巻き込むことが重要です。その人脈や人材を掴むためには自分の利益ではなく、まずは人のために働くことです。そうすることで、相手から信頼を勝ち取れます。

若い時は特に「人のために」を心掛けることです。そうすることで相手がチャンスをくれることもあります。誠実に誠意を持って働いたことは返ってきます。20代は勉強、30代は体で実践、40代はそれを人に教える、そうして50代でやっと本当の社長になれます。

そして自分の身の丈にあったことをすることです。人には色々なタイプがあるので、自分は何に向いているのかよく理解して、最大限の力を発揮できるようなパートナーを見つけることも大切です。大学は仲間を作りやすい環境なので、学生のうちに仲間をたくさん作っておいた方が良いと思います。

 

メディカル・エイド株式会社

設立 2004年1月21日
資本金 97,500,000円
売上高 非公開
従業員数 非公開
事業内容 ・医療用具の開発と製造販売 ・福祉機器、福祉用具の開発と製造販売 ・ペースメーカ・ICD等体内埋込型医療機器用電磁波防護製品の開発と製造販売 ・ペースメーカ・ICD等体内埋込型医療機器に対する各種機器の電磁影響調査 ・人体に対する電磁環境調査電磁防護対策製品の開発と製造販売 ・EMC(電磁両立性)対策用製品の開発と製造販売 ・電磁シールド材の開発と製造販売・純銀メッシュ「MGネット」を利用した、銀イオン除菌消臭製品の開発と製造販売
URL http://www.medical-aid.co.jp/ https://youtu.be/pcjPLRuI1Ko
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