その失敗があったからこそ、、、でもそのコストは大きすぎた
—— 失敗談を教えて頂けますか?
toB向けのビジネスをやっていると、例えば、インスタグラムでフォロワーを増やしたところで、本当にそこからブランドを作ってマネタイズできるのか、といった話が常にあるんです。僕自身も単にフォロワーを集めるだけでは意味がないと思っていたので、もう少しそこから踏み込んだ事をしたいと思いました。
お客さんのお金で実験するわけにはいかないので、まずは自分たちでやってみようと、一昨年にインフルエンサーをプロデューサーとした、洋服やアクセサリーを商品とするD2Cブランドを一気に10個くらい作りました。インフルエンサーブランドを作ってみたわけです。でも、それは当時toCを甘く見てしまっていた部分で、当たり前なんですが、消費者ってそんなに簡単に買わないんですよね。
ただ、その中でも着実に検証や改善を繰り返した結果として、数は少ないですが、うまくいったブランドもいくつか生まれました。今はそのブランドが急成長しているのですが、そこに至るまでに相当なコストをかけてしまいました。金額は言えませんが、toBビジネスで作った利益を全て吹き飛ばすくらいです。
それは失敗と言えば失敗で、今になって思えば、やれることはたくさんあったなと思います。ただ、一方でその失敗がないと、当社がSNS上のコミュニティでマネタイズするためのノウハウは得られませんでした。ちなみに、今では結構な水準でtoCも成功しています。toBとtoCの両方で利益を生み出せるようになったというのは、その失敗があったからだと言えるんです。でも、やっぱりその失敗をするためのコストは大きすぎたと思っています。今でも夢に出てきます(笑)
toCは10秒以内に説明できるくらい簡単なサービスでなければ成功しない
—— toBとtoCで成功したものと成功しなかったものの違いはありますか?
僕の経験に基づく話になりますが、toBはロジカルなんです。企業って基本的には個人の集合体ですので、何か物事を判断する時に必ずロジックで決めます。合理的です、ほとんどのtoBって。だから、ちゃんと論理的に組み立てさえすれば、ある程度は予測が可能です。ただ、予測ができる分、すぐに競合が出てくるので、スピード感が重要になります。
例えば、当社の場合ですと、数年前は一般ユーザーの写真を使ってSNSアカウントを運用するだけでしたが、今はそれだけではなく、SNS側のアップデートや、消費者のテイストの変化に合わせてライブ配信や動画による宣伝投稿など、複合的なソリューションをたくさん提案しています。toBって一旦成功したからそれでいいやってなってしまうと、ものすごい速度で抜かれるんです。最初うまくいったと思っても油断してはダメで、そこから非常にこまめにビジネスモデルをアップデートしてサービスも増やしていく必要があります。
toCは逆に、最初の数年の競争に勝ち残った会社が、市場をすぐに独占してしまう。フリマアプリも、メルカリが圧倒的なシェアを取って終了みたいな。あんまり接戦というものがない。短期間で必ず勝負がついてしまう。最近では、群雄割拠している期間は感覚値で数年くらいしかない印象です。ですから、toCでマーケットを席巻した時の果実はとても大きいですが、その業界では結局1人の勝者しか生まれない。それがものすごくビジネスの難易度を高めています。
そういう環境の中で、唯一の勝者になりうるtoCサービスを、論理的かつ合理的な計算のもとに出せるか、というと非常に難しいと思います。当社もtoCのアパレルブランドで1つ成功例を出せましたが、10ブランドやってやっと1つ出せたなという感じです。2年間かけてあらゆる努力をしましたが、確信を持って成功したと言えるのは1つしかありません。
それでは、どう攻めるべきか。僕の考えですが、toCは極力小さくはじめて、実際の顧客に当ててみた方がいい。最初から作り込むとだいたいダメです。車のように人の命に関わる商品は、当然細部まできちんと定義し、様々な検証を経たうえで提供されるべきですが、オンラインのサービスは、小さく柔らかく最小限の機能でサービスを出しても許されます。むしろ、これが21世紀的な動き。顧客の反応をダイレクトに感じて、データを高速で蓄積しながら、顧客と一緒に良いものを作り上げる気持ち。双方向かつダイレクトなコミュニケーションが極めて小さいコストで多くのデータが取れるSNSというツールが世に出回ることにより可能になった、正に当社が掲げる「共鳴」による新しい経済活動です。僕もこの境地に至るまでに相当かかりました。基本的に10秒以内で説明できるサービスでないとダメです。
死ななければいいかな、くらいの気持ちで起業すればすごい気楽
—— 東大卒でゴールドマン・サックスに入社されて、そこから起業の道を選ばれた時の周囲の反応や当時の心境はどうだったんですか?
割と長い年数働いていたら、外に出るのは難しかったかなとは思っています。ただ、元々若いうちに起業に挑戦したかったという気持ちがありました。もしうまくいかなくても、ゴールドマンは無理かもしれないけれど、金融業界には戻れると思っていたので、それほど思い詰めてはいませんでした。1回くらい失敗しても、なんとかなるでしょうというのはありました。
あと、元々の性分ではありますが、人からの評価はあまり気にならないので、失敗することに対する周囲の評価のようなものを気にして、会社員に戻るのは絶対嫌だというプライドもなかったです。いや、人からの評価は、気にしないようにしていると言ったほうがいいかもしれませんが。(笑)
というのも、日本ってたとえ無一文になってもアルバイト先とか働き口はあるじゃないですか。今だったらUberEatsとか、いろいろな稼ぎ方があるじゃないですか。だから、なんとかなるでしょみたいな。働き口さえ見つけられれば、生きてはいけるじゃないですか。死ななければいいかなくらいの気持ちで起業すればすごい気楽です。
若干前の話に戻りますが、プライドは要らないと思います。いや、誰しもあるんです、僕だってありますけど、ないように自分に言い聞かせた方がいいと思います。そうしないと変なプライドがついてしまう。他人の目線は気にしませんって言い聞かせるんです。
起業の目的は抽象的に、実際にやることは具体的に
—— 最後に、これから起業を考えている若者へのメッセージをお願いします。
若いというのは大きな財産です。それだけで応援してもらえるんです、若いうちって。だから、みんなが応援してもらえるうちにリスクは取っておいた方が良い。僕も1社目を起業した当初はうまくいきませんでしたが、周りの先輩方やおっちゃん(笑)とかがお金を貸してくれたりして乗り越えられたので。周りが応援してくれるうちに起業するっていうのは良いと思います。
起業するにしても勝率は高められる時代です。やみくもに起業するのではなく、しっかり筋道を立てて起業した方が良いと思っています。最近、起業自体が目的になっている人も結構いると思っていますが、その場合はあまりお勧めしません。起業の先に自分が何をしたいのかを考えてみてください。
でも、そこで難しいのが、「自分がこういう世界を作るんだ」っていう理想が世の中の流れと全く外れてしまった場合に次の事業のネタが作れなくなることです。僕のおすすめは、「起業は何のためにするのか」という部分はふわっとさせることです。そのふわっとしたものを解決するために、まずはこのサービスで取り組んでみるんだというような形にすれば、そのサービスが失敗した時も、目標は変わらないので違う角度から取り組めます。
起業の目的は抽象的に、実際にやることは具体的に。まずはやってみて、失敗したらすぐ切り替える。でも、その抽象的な目的自体は絶対にブレさせないというような考え方でやれば、うまくいくのではないでしょうか。