学生とともに創る事業
—— まず、運営している会社の事業内容について教えてください。
株式会社80&companyは、様々な領域の専門家やパラレルワーカー、京大生を中心とした学生エンジニアと共に、クライアント企業のwebサービスやアプリの開発をしている会社です。設立は2018年10月です。特徴としては、新規事業開発を中心に、既にあるものを作るだけでなく新しいものを作ることを強みにしています。
クライアント企業の新規事業開発の部署の方々に企画提案をし、それを当社のエンジニアが学生と共に形にしていきます。その他、学生の専門領域に応じて、例えば教育関連事業であれば、京都大学の教育学部の学生に市場調査や論文調査のようなリサーチ業務を依頼し、情報をまとめて、一緒に新規事業案を作っています。
学生であっても社会人と変わりなく重要なパートを任せていて、学生が出したリサーチの結果についても、クライアントに大変満足されることが多いです。やはり、日常的にレポートを書いている学生たちはレポート作成能力が非常に高いです。海外の研究をリサーチしたり、論文を引用して文章を書いたりするのは、大学生にすごく向いていると思います。新規事業開発は大量にリサーチが必要なのですが、リサーチ業務は大学生に向いていますね。
学生の実践の場がない日本
—— 学生と連携をして事業をされていますが、企業の方と何かをしたいときに学生側からそのような機会を得るのは難しいと思います。地方の学生ほどそういう傾向がありますが、そのようなときどうすれば良いでしょうか。
優秀な学生でさえ、自分が学んでいることを生かして事業において実践する場が日本にはないですよね。参考にしているのは、イギリスのケンブリッジ大学です。京都大学と似ていると言われることもあるのですが、ケンブリッジの周りにはスタートアップ企業などが多くあって、ケンブリッジの学生にコンサルティングを依頼しています。
大学側に依頼が来て、学生は無給で働くことも多いそうです。なぜ無給なのに働くかというと、学生の単位に認定されるからです。もしこれが日本でできたら、多くの機会を大学生に提供できますし、企業と大学とのコネクション、いわゆる産学連携ができると思います。もし単位にならなくても企業がきちんと報酬を提供して依頼すればいいんです。
大学1年の時から、自分がいる学部で学べることが活かせる会社で仕事をしていれば、そのままその会社や同業種の会社に就職することもできるかも知れないですし、そこで出した成果が活かせますよね。なので、学生に早い段階で仕事へ関わってもらって、そこで出した成果をもって就職活動をしていってほしいです。
多くの学生は専門分野の知識を活かさずに就職するのでもったいないと思います。例えば、教育学部を卒業して先生になる人は減ってきていて、教育に関係のない仕事に就くことも多いと聞いています。その学部を選んだのも興味があって選んでいるわけですし、本来は、自分の学問に関係した仕事をできる方がいいと思います。
勉強したことをアウトプットする場を用意してあげるっていうのがすごく重要だと思っています。今はまだ社員数が少なく同時に進行できるプロジェクトが少ないですが、有難いことにお声がけをたくさんいただいているので、プロジェクトをどんどん増やすことができれば、関わる学生の数も増やせると思いますし、学生が活躍する場をもっと作れるのではないかと考えています。
残念ながら、現状日本にそういう場はあまりありません。なので、いろいろな大学とのハブを、まず民間発で当社がしようと考えています。そうすれば、学生が専門性を活かしてそのまま就職できるかもしれないですし、企業側も大学生が学問で培った専門性を活かして新しいことをどんどん仕掛けられますよね。
どうすれば成功するかはわからないが、どうすれば失敗するかはわかった
—— 今まで経験した困難や失敗はありますか。
3年前、ゲームメディアの会社として一億円以上の資金調達をしたのですが、計画通りに事業をスケールさせることができませんでした。
メディア事業だったので、ライターを大量に雇いたくさんコンテンツを制作したのですが、思うように伸びませんでした。また同時並行で、フィリピンでeスポーツのプロチームを作りました。フィリピンで優勝して、アジア大会でベスト8にまでなったのですが、上手くマネタイズできず、十分な収益を生むには至りませんでした。とにかく色んなことをやったのですが上手くいかず、調達した資金のほとんどを使い果たしてしまいました。
成功できなかった理由はいっぱいありますし、実際わからない部分も多いです。もっと慎重にやればよかった、こういう人材が足りなかった、などの反省点はあります。でも、どうすれば成功できたかはわからないのですが、どういう風にすれば失敗するかというのはわかりました。もちろん、上手くいくと思われる仮説はあったのですが、結果的にその仮説が間違っていたわけです。
普通は、仮説を立てて検証して、ということを繰り返していきますし、いきなり大きな規模で勝負するのは危険です。まずは小さい規模で仮説検証して、それで上手くいかなかったら、大きくしても上手くいかないってことがわかりますよね。僕もそうすればよかったのですが、資金調達したことでアクセルを踏めるようになって一気に踏んだはいいものの、思ったように伸ばすことができませんでした。
利益よりも大事な義理
—— どうやって失敗を乗り越えたのでしょうか。
一社目の失敗を活かして二社目に80&Companyを作ったことです。
たとえ新しい会社が成功しても、一社目は失敗したままなので、そのままにせず、はじめの会社を引き上げるためにそこのリソースを使って、二社目のビジネスを作りました。意図して乗り越えた、というよりも、意図せず乗り越えられそうという状態ですね。うまくいけば乗り越えられるな、と考えてはいましたがこれは結果論で、色々もがいていたらなんとか乗り越えそうなところまで来たという状況です。
これは教訓なのですが、僕は仲間に不義理をしていないという自負があって。今、僕は一社目の経営からはほとんど離れていて報酬も取っていないのですが、僕が代表で会社を作って、ついてきてくれたメンバーや僕を信じて投資してくれた投資家がいるので、その人たちを捨てることはできません。捨ててしまう人も多いですが、僕は一つ目の会社を維持したいと思いました。でも新しく作った会社の人からすると、僕が前に作った会社なんてどうでもいいわけですよ。そっちに利益をわけるというのは抵抗があると思います。
なので、そういうことはせず、両方のリソースを活かして仕事をすることで、それぞれが正当な利益を出せるように会社を作ってきました。一回資金を失って、きつい状況に落ち込んで、今上がってきているのですが、僕がその落ち込んだ状況を捨てなかったからこそ全体としてうまくいきつつあるのだと思っています。
普通なら、選択と集中をするじゃないですか。多くの人は、僕の立場になったときに、片方に100%の力を注いでうまくいくなら、そっちを選ぶと思います。なので、もともとやっていた会社を捨てて、新しい会社にフルコミットすると思うのですが、僕は、それをしたらものすごく不義理になると思ったんです。選択と集中はもちろん大事ですけど、筋を通すとか義理を果たすとかをちゃんとできないと誰もついてこないですよね。だから、誰にも後ろめたくないように、真面目に頑張ることが大事だと思っています。
自分がやりたいことの仮説検証を繰り返す
—— 就活生へのメッセージをお願いします。
就職って、アルバイトやインターンと違って1社に絞る必要があるのでリスクが高い選択だと思っています。だから、自分が本当にやりたいことを大学生のうちにやっておいたほうがいいです。就職する前に実際の仕事に触れることで、逆にミスマッチも防ぐことができると思います。自分が将来やりたい仕事に、学生のうちにチャレンジしてください。もちろん、80&Companyも全力で応援するので、やりたいことがある人は是非コンタクトして欲しいです。
自分でもやりたいことが分からないかもしれません。でも、やりたいことの多くはやって楽しかったことだと思います。「全くやったことないけどやりたい」ってあんまりないですよね。例えば、一回も旅行したことないけどものすごく旅行したい、という人はあまりいないですよね。大体は、北海道行きました、楽しかった、じゃあ沖縄も行きたい、という感じですよね。それと同じで、何もしたことがなかったら何かをしたいと思わないです。何かやれば、少なくともそれだったのかそれじゃなかったのかが分かるわけです。別に全業種する必要があるという訳ではないです。お客さんと接する営業・接客が得意か、バックオフィス業務が得意か、などやっていくうちにどんどん細分化されて見えてくると思います。
重要なのは、仮説を立てることです。どんな仕事が世の中にあるかは調べることができるので、これなら興味持てそうだな、という仮説を立てて検証するといいです。まずはどんな仮説でもいいので、見つけてみてください。
今までの人生を振り返って興味があることをやってみて、その結果が積み重なっていけば、入り口の時点ではやりたいことがなくても、最終的にはちゃんとしたストーリーになります。そういうことでいいと思います。多くの人は、最初からロケットスタートを切ろうとして、いきなり大きな成果を求めがちです。そうではなく、まずは仮説から。そしてスモールステップは教育の基本といいますが、小さな成果を着実に積んでいくのが大事です。
スモールステップで仮説検証をしていけばちゃんとした成果が出せるかなと思いますね。僕が失敗したのもいきなりビッグステップを踏んだからなので。(笑)
小さな行動を積み重ねて、大きくなってください。