「今どき八百屋をやるなんて馬鹿じゃないか?」多くの人にそう言われても、送り出して くれた父がいた
—— 八百屋をやろうと思った経緯はなんですか。
父も経営者でした。車の部品工場を経営していましたが、リーマンショックで倒産し、離れていく社員を見たときに、金の切れ目は縁の切れ目ということを肌で感じました。そのときになぜ人は働くのかをとても考え、「金だけで繋がるのは虚しい、だったら仲間とやりたいことをやっていった方が幸せなのではないか」と思うようになりました。父も、「俺の仇を取ってくれ」みたいな感じがあったのではないでしょうか。だから、送り出してくれたのだと思います。
長男なので、普通なら家庭を守るために安定しているサラリーマンをやっていくことを選ぶと思いますが、お金ではない何かを掴みたいと思いました。27歳の時です。
父の背中を見ていたこともあり、小学校の頃から自分もいつかは社長になるだろうと思ってはいました。物を仕入れて売ることは全てに通じる原点と考えて、スーパーで働き始めましたが、そのときに八百屋の面白さを実感し、ハマっていきました。このままこの道で自分の会社を創ったらやりたいことをやれるのではないかと思うようになりました。
――他の八百屋にはないかっこいいというイメージがありますよね。
八百屋に対して、かっこいいではなくて家族経営的なイメージを持っている人ほど、自分たちの取引が際立ってトガって見えますね。八百屋はかっこいいぞということを示したいです。
――トガるとはどういうことですか。他の八百屋との一番の違いはなんですか。
普通じゃないということです。普通だったら仕入れない商品を仕入れたり、異常に値段が安かったり、大量に仕入れてきたりと想像を超えるくらいの量、質、値段だと思います。普通のスーパーだと仕事の標準化を進めるのに対して、社員が自由に仕入れて販売できるようにしています。仕組みの上でもトガってますね。
失敗は山のようにあって覚えていないし、失敗を失敗と思っていない
—— 失敗を失敗と思っていないマインドについて詳しく教えてください。
失敗はたくさんあって、思い出してツイートすることもありますが、後から気付きます。そのときは失敗と思っていません。
何をやるにしてもリスクはあって、起業することはリスクが高いです。でも、そもそもリスクが高くてやる人が少ないことは、やれば大体うまくいくから、そういう意味で僕はリスクに感じません。99人がすることより1人がすることの方が、誰もやらないからこそ本気でやったらうまくいくと思います。いつでも逆張りの発想なので、トガってますね。今どき、八百屋というアナログなものに目をつけたのも、みんながやらないと思ったからです。
健常者も障がい者も採用するときに重視するのは「素直・ひたむきさ・誠実」
—— ―障がい者雇用について、障がい者を雇っていると思っていない、逆に個性と思っていると考えるようになった経緯について教えてください。
大学時代の先生が福祉関係で、その誘いをきっかけにNPO団体を立ち上げて障がい者が普通に給料をもらえる社会を作ろうという活動をしていました。そのとき、働く能力と意志はあるのに、場所がない人が多くいることを知り、自分が社長になるときには障がい者雇用に挑戦するという目標を掲げるようになりました。
採用するときにかけるフィルターは、「素直・ひたむきさ・誠実」です。この3つがあれば、健常者も障がい者も関係なく同じフィルターで見ることができます。採用したら、障害の有無に関わらず、同じように給料も払いますし、指示も出します。八百屋はひとつの店の中に単純作業とサービス業の2つが混在しているため、適材適所で配置できます。
――店長などに若い人が多いですが、若い人を選んで役職につけているのですか。
新卒4、5年目の子が店長になることが多いです。能力だけで見ればベテランの方が上ですが、会社の進むべき理念に共感しているかが大事です。ベテランの方はスーパーの概念が作られてしまっていますが、新卒の子は他を知らないので、逆張りのビジョンを体現できます。またビジュアル的なかっこよさも、会社の目指す「かっこいい」の定義に含みます。
サラリーマンをするのが嫌で入社してきた子も多く、店長になるような子は、普通の人生を歩みたくないと思っている人ばかりです。
情熱と計算の両方が必要
—— 魅力的な学生について教えてください。
いつも言うのは「右手に情熱、左手にそろばん」です。学生で意識の高い子は、社会に貢献したい気持ちや仕事に対するマインドは持っていますが、稼ぐ力は持っていません。そういう情熱やマインドを実行するためには、現実的にはお金と時間と仲間が必要です。自分の力でお金を稼げない人は何を言っても結局意味がなくて、マインドさえ持っていればいつかは成功するというのは甘い考えです。
八百屋をやるメリットは商売を学べることです。マインドだけでなく、しっかり計算ができる、その両方をバランスよく持っている人にきて欲しいです。口だけでなく、行動も伴っているからこそ、認めてもらえるのだと思います。
――学生時代に戻れるとしたら、どんなことをしますか。学生時代にするべきことはなんですか。
友達をたくさん作って、学生っぽいことをたくさんやることです。学生っぽさを自分で理解してやり続けられる学生は、社会人になったときにも求められていることを理解できると思います。学生っぽいことをたくさんやろうとすると、バイトで稼いだり、人脈が必要だったりと結構努力が必要です。
いつの時代も愛されキャラは仕事ができる
—— これからの時代に活躍する若者はどんな人ですか。
結局、大事なのは人間性で、愛されキャラになることだと思います。いつの時代も愛される人が仕事のできる人ですね。大切なのは自分に対して素直であることで、自己開示能力が高い人は愛されます。自分の感情を隠そうとするプライドが一番邪魔です。自己開示能力があって、素直で、愛されキャラの子はとても伸びますね。
――人と違うことで悩んでいる若者もたくさんいると思いますが、そういった人に向けてメッセージをお願いします。
素直さ、誠実さ、ひたむきさがあれば、いろんな人が手を差し伸べてくれるので、他力を借りて成長していくことができると思います。それを一番大事にしてやっていけたら、どんな困難も乗り越えて、誰でも豊かな人生を遅れると思います。みなさん、頑張ってください!