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【ファルタ・マイクロバッテリー・ジャパン株式会社 海老原 武彰】「私の脳には成功するソフトしか入っていない」 50歳で初めてグローバルへ飛び込んだ、失敗を恐れない前向きな姿勢へ迫る

2020/07/01

Profile

海老原 武彰

ファルタ・マイクロバッテリー・ジャパン株式会社 代表取締役社長

大学卒業後旅行会社に入社し、営業を担当。その後ソニーに22年務めた後、50歳でファルタ・マイクロバッテリー・ジャパンに入社。補聴器用空気亜鉛電池の国内シェア拡大に尽力し、6年間で1.8%から80%を超えるまでに。2007年9月に社長に就任し、一昨年海外売上込みで22億を超える売り上げを達成した。常に挑戦を続け、前向きな姿勢で確実な成果を上げてきた海老原氏にお話を伺った。

人生一度きり、「止まる」も「進む」も自分次第

—— 事業内容について教えてください。

ドイツに本拠を置く、ヨーロッパの代表的電池メーカーで130年以上の歴史があります。世界で初めての電気自動車用電池、飛行船ツエッペリン号搭載電池、アームストロング船長が月に降り立った時に持参したカメラの電池など、歴史に残る機器に搭載されてきた歴史があります。特にマイクロバッテリー分野では、空気亜鉛電池、リチウムイオンボタン電池とも世界のトップメーカーで、世界をリードする補聴器メーカー様、ワイヤレスイヤフォンメーカー様各社に採用されています。

その他にも、日本国内では、コンビニの発注端末や新幹線の各車両、ノートブックパソコンのバックアップ用、またロボットのペッパー君にも当社の電池は使われています。

――入社に至った経緯を教えてください。

大学卒業後は旅行会社に入社しました。1日に2千枚ものチラシを配ったり、飛込セールス1日30軒とか、管制官ストライキの中での22日間の添乗とか、そこで性根が座ったと思います(笑)その後ソニーに転職し、22年3か月勤めました。その際、バッテリー部門にいたので当時から同業としてファルタは知っていました。

45歳の時に、会社が主催するの2泊3日のセカンドキャリア研修に参加しました。そこには私と同年代の課長が集められ、「みなさんはこのままでは部長にはなれない。残されたのは3つの選択肢だけ。①このまま若手社員の下で働く②自分で起業する③他の企業へ再就職する。」と言われました。それは早期退職を促す提案でした。

私は、お世話になった会社に貢献できることは辞めることだと認識し、ベストなタイミングで、会社から勧められた再就職斡旋会社に契約しました。50歳で8社からオファーを頂けたのはラッキーだったと思います。特に優れた能力があったとは思いませんが、他のナニモノでもなく“自分”を売り込むことに長けていたのかもしれません。

ファルタとの出会いは偶然だったのですが、その採用試験は外資初めての私にとっては簡単なものではありませんでした。日本での面接を終えた後、3日後にシンガポールからアジアパシフィックのダイレクターが来日するので、英文レジメを持参するように言われました。英文レジメも英語での面接も全くの初めてでした。英文レジメの作成にはたった1枚に丸一日かかり、また面接の予行練習に青い目の外人さんのレッスンも受けました。
シンガポールのダイレクターの英語はあまりにも早く良く聞き取れませんでした。そこで、私はホワイトボードを貸してもらい、図で説明をして面接を乗り切りました。
数日後、ドイツ本社での面接の通知が来ました。当時の日本支社長からは、フランクフルト空港からレンタカーを借りて本社工場に行ってくれと。ドイツ語知らない、英語話せない私にとって、大変な至難の業。レンタカーは無理なので、ドイツ観光局に行って工場までの鉄道での行き方を教えてもらいました。英語での面接も2回目となるので、パワーポイントで自己紹介を紙芝居方式にして持参しました。これにて質問を極力抑えることに成功しました。
入社試験に落ちても、学生時代以来行っていなかったヨーロッパ旅行が無料と思うととっても得した気分になりました。

2007年の9月には社長に就任し、もともと年間で、1人当たり1億円未満だった売り上げが、2018年には海外での売り上げも含めて1人あたり5億円を越えるまでになりました。振り返るとツイていたと締めくくれるかもしれません。理由は、特別な事をしてきた訳ではなく、あたりまえのことをあたりまえにした結果がついてきただけです。

失敗を分析し、成功に繋げる

—— 危機を乗り越えた経験を教えてください。

入社当初、ファルタの補聴器用空気亜鉛電池の日本国内のシェアはわずか1.8%でした。
ドイツ本社からのミッションはナンバーワンポジションの獲得でした。6年かかりましたが、国内シェア80%を達成しました。

私は自分の給料よりも低い売上額に驚きを隠せませんでした。それと同時に、なんだか申し訳ないという気持ちも湧いてきました。そこで、「私が5年で国内シェア80%にしてみます」と宣言しました。自分自身にプレッシャーをかけたのです。私が入社して1か月後のことでした。

国内シェア1.8%という事実は、当時の営業に原因がありました。その頃営業を行っていたのは、ドイツ人とシンガポール人、そして日系電機メーカーに25年勤務した日本人でした。文化による考え方の違いにより営業がうまくいかず、また経験豊富な日本人も、技術についての説明は出来ても市場についての知識が少なく、効果はいまひとつでした。

私はかつてメーカーで培った営業の知識を総動員して改善に取り組みました。補聴器用空気亜鉛電池がどのようなルートでお客様のもとへ届いているのか、市場分析を行いました。そして最有力販路である眼鏡チェーントップ10法人に攻略目標を設定しました。

それから、眼鏡チェーンを軸にして自社の補聴器用電池を流通させるために様々なアクションを起こしました。まず、展示会出展です。補聴器の展示会ではなく、眼鏡業界の展示会に出展し、チェーン店本部幹部社員の方、バイヤーさんとの接触の機会を作り、ドイツの展示会に招待しました。

また、日本の気候風土に合った電池の開発をドイツ本社に要請し日本バージョンを実現させました。
展示台も環境大国ドイツは紙製でしたが、日本では紙製の展示台は質素な印象を与えてしまいます。そこで、独自にドイツのイメージが湧くアクリル製の展示台を作成しました。

日本国内では、誰も知らないメーカー、知らないブランドの商品を定着するために、ストーリー性のある広告を業界紙、雑誌に掲載したりして知名度を高めました。それに加えて、実際に買っていただいたお客様からの認知拡大を狙った販売促進用の紙袋の制作もしました。

今日の敵は明日の味方という考えから、日本の同業メーカーへの売り込みを熱心に行いました。いまだにライバルメーカーの参入を許していません。

このように丁寧に市場分析をして最善の流通チャンネルを探し出した結果、取り組みを始めてから6年目に国内シェア80%を達成することができました。その後、時には国内シェア90%を超える事もありました。

――その経験から得た教訓を教えてください。

マーケティング的発想の重要性を感じました。どんなに優秀な技術があっても、市場を分析し、深く理解しなければシェア拡大は難しいでしょう。消費者の求めているものを調査し、売り込み方を決定し、流通を円滑にするためには、実際に販売者、消費者のもとに足を運び、生の声を聞くことが大切です。

現場に行って初めて課題がわかり、それによってより良い解決策が見つかります。つまり、現場には問題も答えもあるのです。「上手くいかないかもしれない・・・。」と失敗を恐れていては答えには辿り着けません。現場に何度も赴くことでマーケティング的発想は磨かれると思います。

敵は自分の心の中にいる

—— 人生の大先輩である海老原様から若者へのメッセージをお願いします。

若い方たちはぜひ、失敗を恐れずに挑んで欲しいです。もしやるかやらないかの選択を迫られた時は、「やる」ことを選択してください。後にその選択を振り返った時、やらずに後悔したことは一生続きます。そうならないためにも、果敢に挑戦してください。

また、ストレスによって精神的に辛い思いをすることもあると思います。しかし、ストレスがあるからこそ「改善していこう」というきっかけが生まれるのです。
竹になぜ節があるのか知っていますか?節があることにより折れることなく、長くしなやかに成長することができます。それと同じように、私たちもストレスを成長の機会にできるよう、前向きに捉えることが大切だと思います。

そして最後に、自分自身をブラッシュアップし続けることを忘れないでください。私は50歳から英語の勉強を始めました。留学経験なし、海外営業経験なし、海外駐在経験なし。ないない尽くしで、入社時はTOEICの点数も低く、リスニングもほとんどできませんでした。それでも、真摯に英語に向き合い勉強を続けました。すると私の熱意を汲み取ってくれた友人の多くが協力してくれ、今ではスピーキング力もリスニング力も格段に上達しました。

何事も、遅すぎることはありません。出来るか出来ないか、やるかやらないかは全て自分次第です。敵は自分の心の中にいます。その敵に打ち勝って、常に挑戦を続けてください。失敗してもいいのです。失敗できるのは若いうちだけなのですから。

ファルタ・マイクロバッテリー・ジャパン株式会社

設立 2015年1月
資本金 5000万円
売上高 非公開
従業員数 6名
事業内容 電子機器用のハイクオリテイーな電池の研究、開発、製造、販売
URL http;//www.varta-microbattery.com https://www.varta-ag.com/en
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