常に時代の最先端を生きてきた
—— 起業したきっかけを教えてください。
大学卒業後、制御機器メーカーでブレーキの設計に携わりました。もともと化学の勉強をしていたため、本来想定していた職業ではありませんでしたが、そこでも自分のベストを尽くしました。
その後商社に転職し、営業やマネジメントを学びました。勤め始めて7年が経った時、社長に「これからはインターネットの時代です。人やモノだけでなく、コンテンツの移動を考える時代ですよ。」と進言しましたが聞き入れてもらえず、それなら自分でやってみようとネットコンテンツ会社を起業しました。特にためらいもなく、誰にも相談せずに決めました。楽天的にものごとを考える性格なため、ダメだったらまたやり直せばいいという気持ちでした。10年の会社勤めとは違って自由にできたので、起業する大変さよりも解放感が大きかったように思います。
起業当初、希望はありましたが、どのようにしてお金を稼げばいいのか分からず、とにかく手を動かし、頭を動かしながら事業を始めていました。結果を出さなければ…という不安は常にあり「生みの苦しみ」も感じましたが、その分成功した時の喜びは大きかったです。個人の力の大きさを感じ、自信になりましたし、生きる喜びも感じることができました。
そんな中、インターネットバブルが崩壊しました。それまでネットコンテンツを扱っていたため、方向転換をしなければなりませんでした。その時、知人が文部科学省の研究所で人型ロボットの研究を始めたと聞き、見学に行きました。メーカーでブレーキの設計に携わっていたこともあり制御や機械についての知識を生かせると思い、ロボットを仕事にしていこうという思いが芽生えました。それをきっかけにZMPを創業し、ロボット事業を始めました。
「自分が作りたいもの」から「人が求めているもの」へ
—— ZMPを起業してから苦しかったことはありますか。
2008年のリーマンショックの時は会社存続の危機を感じました。当時は投資家からの出資を受けて資金調達をしていましたが、それが全部なくなりました。会社を存続させるには銀行に借り入れするほか手はありませんでした。起業の際に「返せなくなったときに自己破産しなければいけなくなるから銀行に借り入れはするな」と金融関係に勤める知人に言われていたのですが、社員のことも考えて借り入れを決めました。
一家の主が家族を大切に思うのと同じように、社長が社員を大切に思うのは当然のことです。社員に我慢をさせずに社長としての責任を果たすべく、給料は維持していました。社長である私が我慢すれば会社もその分生き延びることができると考え、必死に耐えました。
正直、会社を潰してしまう方が気は楽でした。しかし、今会社を潰してしまうのはもったいないという気持ちから底力がわき、少しずつアイデアも湧いてきました。このアイデアを試してみよう。決して楽じゃない道でも一回勝負してみよう、ダメだったら仕方ないと、自分を鼓舞して持ちこたえました。生きていたら何度でもやり直しはききますからね。
――リーマンショックを受けて会社はどのように変わりましたか。
以前は自分の好きな音楽ロボットを事業にしようとしていました。しかし、リーマンショックを受けてそういった贅沢品を事業にするのではなく、もっと多くの人の役に立ち、多くの人を喜ばせるものを提供したいという思いが芽生えました。今まで培った技術を生かして、自動車がロボット化する将来を見据え、自動運転タクシー開発に乗り出しました。
自動車産業の市場が大きいということもあり、売れ筋も良く収益は上がりました。暗闇から出たような気持ちで、素直に嬉しかったです。黒字なんて久しぶりでしたから(笑)
研究開発型の会社は赤字が当たり前で、時間をお金で買って研究を深めるものでした。しかし、社会に求められ、受け入れられるものを作っていけば利益も得られて、その利益でさらに研究を進めていくという好循環ができました。これこそ私が求めていた理想の形でした。
――2016年に上場を延期した決断について教えてください。
まず、当社は上場を第一目標としていません。一番大切なのは社会に認められ、影響を与えられるように規模を拡大して、会社が成長していくことです。もし上場を第一に考えてしまうと、本来の目標からずれてしまうと思います。上場した後伸び悩んでしまう企業も多くありますし、上場を達成したことでやる気が切れてしまい、それ以上の成長が見込めないこともあるのです。
私は、売上が100億、1000億規模の会社になって初めて、社会に認められ、影響を与えられるような会社になることができると考えています。それが達成できないのであれば上場には意味がないと思っています。上場することは、自社の器を決めてしまうと考えているからです。もし当社が2016年に上場していたら、その時点の会社で器を決めてしまう事になり、現在のような事業展開はできなかったでしょう。そのため、自分が納得できるまで上場はやめておこうと延期の決断を下しました。
――様々な経験の中で得た教訓を教えてください。
知識や技術ももちろん大事ですが、一番は心を整えることです。すべての事は自分の心が決めると思っています。悪いことが起きて心が折れそうになることもあります。そんな時に一呼吸おいて心を落ち着かせて「まだまだできるはず」と思えば自然と出来てしまいます。
また、悪いことが起きてもそれを蓄積しないことが大切です。私は一度寝て忘れるようにしています。新しいことを考えて「きっとできるよ」と前向きに切り替えます。「ピンチはチャンス」という言葉と同じように、心を切り替えることで見方が変わって、失敗の裏側にある隠されたチャンスを見つけられるのです。
今は「新しい時代の夜明け」である
—— 様々な経験を積んだ谷口さんから大学生へメッセージをお願いします。
大学生の時は自分が何をしたいかよく分からないですよね。私が今就活生ならおそらくどこかの会社に気分で決めると思います。たくさんの会社を受けて負け癖をつけるのも良くないし、あまり深く考えなくていいと思います。採用してもらったところで素直に一生懸命働いて、自分の能力ややりたいことがわかってきたら新たな道を探すでしょう。
就職できなかったとしても、強い意志さえあればフリーターでもいいと思います。実はフリーターが一番色んな職種にチャレンジできます。バイトやパートから店長になった人もたくさんいます。ただお金を稼ぐだけではなく、人があまり経験していないことをやってやるぞという意志をもって多くのことにチャレンジすれば、企業が求める人材になれると思います。
スタートはどこでもいいんです。大企業でも、小さな企業でも、フリーターでも。どこにいてもベストを尽くせば次につながります。卑屈にならず、自分の高すぎる理想にとらわれることなくリラックスした就職活動を送ってほしいです。
今は「新しい時代の夜明け」です。世の中がガラッと変わるこの時代に、大人ではなく若者として多くの経験を積んだみなさんは幸運です。今こそ新しいものを生み出すチャンスです。どこの会社に入っても何も気にせず自信をもってください。自分の可能性や想像力に自信をもって、行動を起こしてほしいと思います。