未来は小さな選択の積み重ねで創られる
—— 起業する前に例えば演劇など、少し異色な経歴をお持ちですよね。
たしかに、様々なことを経験してきたと思います。社会人になってから、はじめはデンマークにある企業に勤め、その後から演劇を始めました。ここで全く違う道を選んだのですが、演劇を始めてからの時期は本当につらかったです。30代前半の頃で、人生真っ暗闇でした。こんなはずじゃなかった、どこで自分の人生狂っちゃったんだろうと自問自答していましたね。
その演劇で苦しんだ時期もあり、個人的に女の30代は修行だと思っています。女性は普通に仕事をしていても、キャリアと出産という壁に必ずぶち当たるはずです。今だから言えるのかもしれませんが、女性にとっての30代って苦労するようにできているのだと思います。
そういった苦しい時期でも進むことは決して辞めませんでした。未来というものは、不確かなものではなくて、自分が選択した結果の積み重ねでしかないと思うのです。自分の目の前にあるものがこれからの自分の未来を創っていると感じます。
――様々な経験を積まれてから今の事業を始めたのですね。
運営していらっしゃる「キャリーオン」の事業内容についてお話いただけますでしょうか。
「キャリーオン」は子ども服の買取・販売コミュニティです。子どもの成長スピードは速いもので、すぐに服がサイズアウトしてしまいます。そのサイズアウトした服を次に着てくれる人に届けるお手伝いをしています。サイズアウトした子ども服に託して、「ママからママへの愛情リレー」ができるサービスです。
基本的には古着屋さんと同じようなもので、子どもの体に合わなくなった服を持っているママがサイトを通じて商品を送り、こちらで服を査定してお客様に査定額を提案します。そしてお客様に査定を納得してもらえれば買取が確定し、次のママに売れるようにサイトに出品するといった流れです。
子ども服はとても回転が速いです。特に未就学の間は、まだ服が綺麗なうちにサイズが合わなくなってしまうので本当にもったいないと感じます。どの服もまだまだ着られる状態のまま残っており、そういった服の存在に気づいたときに、欲しいものを欲しい人ができるだけ便利に選んで、全国でおさがりを回しあっていけるシステムができないかと考え、今のサービスを始めました。
――ママのためのサービスを思いついたきっかけを教えていただけますか。
実は起業する前からママ事業をやっていました。当時ママのためのイベントは流行っていて、私も頻繁にイベントを開催していたのです。そのイベントを通じて、ママたちが抱える問題に直面しました。直接ママから意見を聞ける環境があったことで、子ども服のリユースはママのニーズに合っており、役に立つ事業だと確信したのです。
ひとりで背負わなくていい「人に頼る」ことも大切に
—— お子さんがいらっしゃり、起業家としての仕事と子育ての両立は相当難しいものだと思います。どのように両立されてきたのでしょう?
自分ひとりで頑張ってきたということは決してなくて、私の場合ラッキーなことに母親の力を存分に借りてきました。自分ひとりで背負わなきゃと思う必要はなく、借りられるものは何でも借りたらいいのです。若い女性には、独りよがりにならずにもっと人に頼ってほしいと思います。
ご飯は自分で作らなきゃ、掃除も自分でしなきゃと思わなくていいです。子どもは子どもの人生だし、ママにはママの人生がある。一生懸命自分で仕事をする道を選んだのなら、ママであっても真っ直ぐにその道を進んでほしいなと思います。
そして、憧れであり刺激し合える大切な存在である、女性起業家仲間にも何度も助けてもらっています。彼女たちのなかには、事業がインバウンドの時期で大変だったとしてもいつもポジティブなことしか言わない人、大変だと愚痴をこぼさない人、周りに弱音を決してはかない人、どんどん新しいアイデアを出しているような人ばかりで、彼女たちの功績や活躍が良い刺激となり、励みとなっています。
そういう女性起業家仲間の存在が私にとっては大きく、彼女たちに恥じないように生きていたいなと思い日々働いています。
やらない後悔よりやってからの後悔を選ぶ
—— フリーランスになった後に、真逆ともいえる起業家になることに踏み切れた理由はなんでしょうか。
私はバックグラウンド的に他の起業家さんと変わっていて、起業するときに他の会社を辞めなければならないというハードルはありませんでした。フリーランスだったため、むしろ失うものがない状況であったうえに、シングルマザーなので自分で仕事をする必要がありました。
仕事をすることに関しては当たり前のことだと思っていて、たとえシングルマザーでなかったとしても、私の中で仕事をしないという選択肢はありません。自分自身のビジネスをいつかは持ってみたいと、心のどこかで思っていましたね。そういう考えを持っていたので、私にとって起業することは高いハードルだとは感じませんでした。
やらない後悔よりやってからの後悔の方が絶対良くて、やらなかった後悔をするのは嫌でした。やってだめだったらそれでいい、だめだったら全速力で戻ればいいじゃん。そう考え、起業することを決めました。
――事業を軌道に乗せるまでが大変だったと伺いました。
具体的にどういった点が大変だったのでしょうか。
リユースのサービスは、自分では生産しないため、売るものがたくさんないと始めることができないので、最初のうちは出品するものを集めるところから始まります。小売りのように製造して在庫を確保することができず、誰かが出品してくれるのを待つしかありません。そのため、サービスをするために十分な商品量が必要で、それを確保するのが最初は大変でしたね。
また、「キャリーオン」のような今までになかったサービスが世の中に知れ渡るまでにかなり時間がかかりました。ただ、今の時代は世界的に持続可能な社会が重要視され、サステナブルやSDGsという言葉が注目されるようになったという影響もあり、みんながより良い商品を求めるようになりました。そのような時代の波がどんどん私たちの事業に近づいてくれているように感じています。
理想の自分に向けて 重要なのは「続ける力」
—— これまでの逆境経験から得た教訓はありますか。
結局、一番大事なのは続けることです。これに勝る努力は無いと思います。やってみて無理だったらそこから引き返せばいいという風に常に考えています。そして何かを続ける先にあるのが、こうありたい、こうなりたいという理想の自分です。その理想像に向けて進んで行くことを辞めないこと、継続することの大切さをこれまでの経験を通して改めて学びました。
そして、何かを継続するために重要な軸となるのは、自分自身を持つことです。これは様々な場面で言われることが多いかもしれませんが、そう簡単はことではありません。きっと自分自身と向き合うことは、誰にとっても一番難しいことなのではないかなと思います。
自分自身のブレない何かを一個もっておくと、人生において選択が求められるシーンで迷うことは少なくなるでしょう。自分のブレない軸、これは見つけるのが早ければ早いほどいいと思います。
人間は、ちょっとずつ変わります。こういう自分になりたかったけどやっぱり違うかも、と後から理想像が変わることも当然あります。そのときそのとき自分の気持ちに正直になって、自分の向かいたい方向へブレずに進んで行くことを絶対にやめないことが大切です。
女性だからこそ、経済的な自立が大切
—— 最後に、学生へのメッセージをお願いします。
今活躍している人たちを見て、あれはあの人だからできた、自分にはできる訳がないと決めつけないで欲しいです。誰にでもできます。私が心からすごいなと思っている人でさえ、全員が同じ道を通ってきているのです。だから、学生にはすごい人たちを遠い存在だと思わずに簡単に物事を諦めないで欲しいです。
また、学生のなかでも女性起業家を目指している方に伝えたいのは、仕事をすることを絶対に手放さないで欲しいということです。最終的な自分自身の生き方を追求するためには、経済的な自立がやっぱり大事になってきます。女性にも、自分の仕事を一生持って、自分自身を一生養うという選択肢をなくさないで欲しいと思います。
そして女性には必ず、結婚や出産といった壁が死ぬほど出てきます。そんなときでも、必ずあなたのことを助けてくれる人がいます。苦しいとき、行き詰ったときに、助けてください困っていますと素直に周りに相談しながら進むことは、何も恥じることではありません。人に相談して、壁にぶつかりながらも仕事を一生するという覚悟を、女性だからこそ、できれば持ってほしいなと思います。