お客様を第一に考えることから生まれた「卓越したホスピタリティー」
—— 今の事業内容について教えてください。
当社は一般家庭の衣類のクリーニングを行っている会社です。創業55年、今年で会社設立45周年を迎えます。お客様の利便性を第一に考え、「買い物ついでにクリーニングを」という視点から、食品スーパーを中心に店舗展開をしてきました。現在は大型ショッピングセンターなどにも出店し、近畿300店舗の直営店を抱えています。
もともとクリーニング店に勤めていた父が、そこから機械を買い取って個人店の営業を始めました。創業当時は2・3人ほどの小さな店でしたが、クリーニング事業を生業としていくために次第に会社の規模を拡大し、今では1200名の従業員を抱える会社になりました。
――「卓越したホスピタリティー」を大切にされるようになったきっかけは何ですか?
5年ほど前に、クリーニング業界はいったい何ができるのだろうかと自問自答していた時期がありました。その時に『スターバックスのライバルは、リッツ・カールトンである。~本当のホスピタリティの話をしよう~』という、元スターバックスコーヒージャパンCEOの岩田氏と元リッツ・カールトン日本支社社長の高野氏がおもてなしの本質について対談されている本を読み、20年前に聞いた話を思い出したのがきっかけです。
それはMKタクシーの青木会長の業格についてのお話でした。業格とは文字通り「業界」の「格」です。「タクシー業界の格は低い」という社会的風潮があった当時から、青木会長はずっとタクシー業界の格を上げていくためにお客様を第一に考えて行動していました。
「他のタクシー会社は、タバコを吸って、車内を臭くして、不愛想な運転手だった。だが、自分たちはそうではない。タクシーとはお客様を安全に目的地までお運びする、という使命がある。安心・安全で快適に利用してもらうためには、制服をきちんと着る、挨拶をする、接客業として基本的な事をするべきである。タクシー業界の格が低いのはそれらができていないからだ。そこをMKタクシーはきちんとしてタクシー業界の格をあげていくんだ」とおっしゃっていたのが印象的でした。
本を読んでその話を思い出し、お客様へプラスワンのサービスをするために自分たちは何をするべきか考えるきっかけになりました。お客様の期待値が100とすると、プラスワンして101を提供するか、少し足りずに99を提供するかは、数値で見ればたった2しか変わりません。しかしそのたった2の差で「いいね」と思われるか「残念」と思われるかは、大きな違いです。
まだまだクリーニング業界も業格が高いとは言えません。それ故に、店頭ではお客様から高圧的な態度を取られることもあります。社会的な「クリーニングに対する業格が低いイメージ」を払拭するためにも、お客様へのプラスワンのサービス、卓越したホスピタリティーを徹底していきたいと思っています。
結果が出るまで尽力するのが「努力」
—— 学生時代はスポーツに熱中していたとお聞きしました。
もともとスポーツが好きな活発な少年でした。中学時代は野球をし、高校生になると父親の勧めもありゴルフに熱中しました。卒業後、アメリカにゴルフ留学をして、練習に励みながらアマチュアの大会に出るなど、多くの経験をしました。腰を痛めてやむなく帰国しましたが、スポーツで身に付けた精神が社会人となってからも活きていると思っています。
ゴルフ含め、個人スポーツは全てが自分の責任です。たとえ雨や風などの外的要因があったとしてもそれに上手く対応出来ないのは当人の力量不足です。そういった世界で勝負してきた経験から、他責にせず自分に責任を求める姿勢や、結果が出るまで努力する姿勢が身につきました。
団体スポーツではチームワークを大事にする姿勢が身につきますし、特にサッカーやバスケなどの常に動いているスポーツはプレーをしながら主体的に考え、瞬時に判断する力が身につきます。こういった点が、多くの企業がスポーツ選手を採用したいと考える理由の一つだと思います。
――様々な経験の中で困難や失敗はありましたか?
プロゴルファーの夢を腰痛によって諦めたことが一番辛かったです。挫折した瞬間でした。しかし私は、成功経験ばかりで失敗を経験しなかったら、次第にチャレンジすることが怖くなってしまい、行動を起こせなくなると考えています。そのため、今まで経験したどんなことも大切な学びのチャンスだったと感じています。
失敗からも成功からも学ぶことはたくさんあります。より良くするためにはどうすればよいか?と考え、失敗を失敗のままで終わらせないことが大切です。上手くいかなかったときも工夫し、改善していく、それを続けていれば最後は必ず成功に繋がります。その甲斐あってか、実は「失敗経験」を尋ねられても浮かびません。「失敗」は成功への過程と考え、全て成功に繋げるまで努力してきました。
学生の皆さんもいろいろな挫折を経験しているはずです。その時に抱いた「なにくそっ!」というハングリー精神を大切にしてください。失敗しても全て成功に繋げることができます。私も腰を痛めてゴルフができなくなった時「60歳になってシニアツアーに出てやる!」と思って自分を奮い立たせていました(笑)
――辻本さんは入社当初から上の役職の目線を持つことを意識していたということですが、新卒の学生の場合、何を意識するべきでしょうか。
全てにおいて、目標をどこに設定するかによって取り組み方は変わってくると思います。スポーツに喩えると、県大会出場が目標なのか、全国大会出場が目標か、全国優勝が目標か・・・。それによって練習への意識も、練習量も、練習方法も変わってくるでしょう。
仕事も同じ事が言えます。自分がものを認識する立場や視点、つまり「視座」をどう設定するかにより、仕事への取り組みが変わってくるのです。
少し背伸びをして自分より少し上の目線を持つように努力せずに、自分の価値観のフィルターを通して見える目線だけで仕事をしていたら愚痴も増えてきます。「なぜ私はこんな仕事をしているのか」と思ってしまいます。しかし、一つ上の視座から見てみると、「全体がこうなっているから、これに繋げるために必要な作業だ」と分かり、自分の仕事の意味が理解できます。
例えば新卒の社員の多くが経験するであろう日報についても、「なぜこんな面倒くさいことをしなければならないのか」と不平ばかり言う人は成長できません。しかし、視座を上げて会社の理念や目指すゴールを理解して日報に取り組むことができれば、自分を顧みて反省し、次につながる学びを得て成長することができるでしょう。
一見何でもないような、面倒くさいような仕事もゴールに到達するために必要なものだと知るためには、視座を上げていくしかありません。新卒の学生でも、少し背伸びして、自分より少し上の視座を意識してほしいです。
「百聞は一見に如かず」の、その先を
—— 多くの経験をした人生の先輩である辻本様から学生へのメッセージをお願いします。
今はコロナの関係で就職活動が大変だと思います。学生と企業との出会いの場である合同企業説明会の中止が相次ぐ難しい状況の中、学生の皆さんは活動量をどのように増やし、世の中にある企業をどうやって見つけるかが重要になってきています。百聞は一見に如かずですから、一生懸命に会社を探して実際に見る機会を得てください。
実は、百聞は一見に如かずには続きがあるのを知っていますか。まず、「百見は一考に如かず」です。100回分会社を見ても、一つも考えなかったら意味がありません。そして、「百考は一行に如かず」と続きます。いくら考えても行動を起こさなければ意味がありません。最後は「百行は一果に如かず」。どれだけ行動を起こそうとも、成果に結びつかないと意味がないということです。
ただ内定を勝ち取ることがゴールではありません。内定後、多くの人がその会社で人生の大半を過ごすでしょう。その中で自分がどのように成長できるか、そういう風に長い目で考えて就職活動に取り組んでほしいと思います。大変な時期だと思いますが就職活動頑張ってください。