「採用する・しない」よりも、「育てて、増やす」が自分の使命だと思った。
—— 若くして起業されていますが、今の会社を立ち上げたきっかけは何ですか?
きっかけは採用の仕事をしていく中で感じた『違和感』です。2010年にサイバーエージェントに入社し、営業経験を経て、採用の仕事をしました。当時「スマートフォンアプリを2年で100個作る」ことになり、エンジニア採用を強化することが決まり、関西のエンジニア採用の立ち上げを1人でやることになりました。採用の仕事にはもともと興味があったし、よくわからないけど楽しそう、という感じでした。採用だけでなく、研修や制度設計や評価、既存手法のオンライン化まで幅広く携わらせていただきました。
採用の仕事を続けているうちに、「採用する・しない」よりも、「(エンジニアを)育てて・増やす」ことに段々興味が強くなってきたのです。7年という短い期間とはいえ、ずっとエンジニア候補者と話してきた中で『ある変化』を感じました。昔は、「小さい頃から工作とか、ものづくりが好きで、色々作ってるうちにエンジニアとして働こうと思った」、「お父さんがエンジニアで、パソコン触ってるうちに色々調べてて〜」とか、そういう人が多かったのですが、最近は、「(内定をとるために)徹夜でアプリ作りました!」「エンジニアって給料良くて、リモートで楽に働けそうなので〜」という人に出会うことがすごく増えました。よく料理に例えるのですが、前者は「小さい頃から包丁握ってて、料理するのが当たり前だった。」「もともと料理が好きで、いろんな食材や調理方法を試してきた。まずいのもいっぱいあったけど、段々美味しくなるのが楽しい。もっと美味しい料理、今までにない料理に挑戦したい」という人。後者は、「とりあえず料理人になりたい。一旦料理キットで作ってみた。教わってます!」という人。
エンジニアは本来、課題解決の為に技術を使う人だと思うのですが、最近は捉え方も多様化してきていて「エンジニア」というワードに対する違和感を感じます。エンジニアというワードが何を示すのかよく分からなくなってるというか、とりあえず学んでると有利!みたいな人が増えたなぁ、という印象です。
「オリンピックをもっと楽しめるサービスを作りたい!」「身近にいる大好きな人が欲しいものをアプリにしてみた」「誰得だけど、クソアプリをとりあえず作ってみた!」みたいなWantや遊び心がもっと欲しいというか。個人的にはプログラミングではなく、「エンジニアリングができるプロ」を世の中にもっと増やして行かないといけない、という危機感を持っています。学ぶだけではダメだし、真似るだけでもダメ。プロとして自分で決めて立ち回れる、面白いものや便利なものを自らの手で生み出したい人を増やしたい。そう思ったのが起業のきっかけです。
31歳で起業を決めました。「世の中的に起業が大体40代らしい。それに比べると(当時)31だし、まぁ3年ちょいやっても35か。ダメならどっか拾ってくれるでしょ(きっと…)」と言う気持ちがありました。それは慢心でもあり、なんとか飯が食えることが見立てとして手応えがあったことが背景ですね。もし失敗してもやり直す覚悟はあるし、それ以上に自分がやりたいことに挑戦したかった。
「いま、自分が、イキイキ働くエンジニアを増やして、日本初のサービスがバンバン生まれる世界を創りたい。」ただそれだけでした。今もその気持ちは変わらず、暑苦しいですが、「大変だけど楽しい!」とニヤニヤしながらものづくりや技術の発展に取り組む人を増やしたいと思っています。そして2018年10月にTechBowl(テックボウル)を立ち上げました。
「Tech(技術の)Bowl( サラダボウル)」のような会社を作り、ものづくりと出会いの化学反応を起こしたい
—— 会社の事業内容を具体的に教えてください
TechBowlでは、エンジニア教育事業、採用支援事業、そして採用コンサルティング事業の3つを展開しています。「TechTrain」(テックトレイン)という、有名企業の現役エンジニアから学べるオンラインコミュニティサービスを運営しています。
TechTrainの1番の特徴はメンターです。メンター(講師)は全員現役プロエンジニアです。LINEやメルカリなどWEB/IT系企業で働く現役エンジニアが現在35社73名在籍しています。ユーザーは、オンラインでメンターに1on1で開発やキャリアの相談をすることができます。
サービス開始から半年経ち、現在500名以上のユーザーが利用してくださっています。全体の6割が学生で4割が社会人です。最年少は現状13歳です。(U30でエンジニアを目指す方であればどなたでも使えます。)
スキルアップ、就職/転職相談、開発しているサービスに関する相談など、面談内容も様々です。
また、昨年11月からオンライン完結インターン「MISSION」を新機能としてリリースしました。一言でいうと「企業のCTOや採用担当と共同開発した開発ネタ広場」です。年齢や学歴、居住地に関係なく、オンラインで会社の事業・技術・文化をいつでもどこでも知ってもらえるようにしたい。そしてお勉強ではなく、実務の疑似体験ができるようにしたい。そんな思いを実現したく、MISSIONを開始しました。現在9社10MISSIONを公開中。おかげさまで開始から2ヶ月ですでに。延べ150人のユーザーがMISSIONに挑戦してくださっています。
MISSIONはある種ゲーム感覚で企業からのお題に取り組むことができます。やりながら、調べながら、企業の事業や技術をオンラインで理解していく。そして分からないところはメンターにすぐ相談。仕事を体験して欲しいので、開発手順もあえて粗く作っています。まずは自分で調べ、分からないところはメンターに相談する。相談したいことを自分の言葉で説明する。仕事の中でも同様なので、そこも含め疑似体験していただきます。分からないなりに推し進めてやりきる力をつけて欲しいと願っています。
開発経過はGitHubリポジトリで保存される為、わざわざポートフォリオを作らなくても、自分の成果としてアピールできるようになっています。他の教育サービスと異なるのは、仕事に対しての立ち廻り方やトラブルに対しての実務的なアドバイス、そして本業ならではのリアルな情報をメンターから聞くことができる点です。寿司職人になりたい人は、一流の寿司屋で大将の寿司を食べる。握り方を見て真似る。立ち回り方をみて学ぶのが一番手っ取り早い。そんなイメージです。
最終ゴールとしては、TechBowlという社名のとおり、「技術のサラダボウル」のような会社を作ります。TechBowlには、U30のエンジニアがどんどん集まってくる。そして様々なエンジニアが、サラダボウルの中のサラダのように混ざりあうことで、新たな出会いが生まれ、化学反応が起き、新たなサービスが生まれる。そんな場所にしたいです。
一番鼻息の荒い10代・20代が日本一集まるコミュニティがTechTrainで、そこにプロのエンジニアも集い、混ざって、面白いものがどんどん生まれるというようなものを作っていきたいと思っています。
––––––––料金はどの程度かかるのでしょうか?
ユーザーは無料で利用することができます。ありがたいことに「課金してもいいからこういう機能を作ってほしい」というリクエストも多いので、今後はそういうものも取り入れつつ、このまま無料でできるところも残しながらアップデートしていきたいと考えています。
社長として採用するのは難しい
—— 順調に進んでいるように感じますが、失敗したことはありますか?
全然順調じゃないです(笑)、失敗と実験の連続ですね。失敗で思い浮かぶのは、自社の採用についてです。採用担当として採用するのと、社長として採用するのは、全然違うということです。採用担当者は、内定を出したり、戦略を考えたり、色々な役割があって尊い仕事であることには変わりないのですが、最終決定者ではありません。
経営者として、一緒に働く自社の社員を採用する時、あれだけ採用の仕事をしてきたはずなのに、簡単に決められなかったのです。「本当にうちの会社に来てくれるのだろうか、会社が傾いた時にこの人はどうするのか、この人の家族まで支えられるのか」ということまで考えます。
ビジネスモデルが確立していない中で、事業計画を横目に売上とコストとのバランスを見ながら採用していかなければいけないのは本当に難しいです。自分と正反対の能力を持っている人を採用した方がいいということを学びました。今まで歩んできた畑が同じという人を採用した場合、会社が爆発的に成長しにくいということです。
同じバックグラウンドの人を採用してしまうと、新しいものが生まれません。アイデアや議論に振れ幅がなく、凡庸な案・気合論・数字遊びになってしまいます。起業時は、同じ畑の人の方がやりやすいし集めやすく、それはよくあることですが、致命的な部分の方が多いと思いました。どうせやるなら互い強みが違う、かつ、その違いを褒め合い、組織全体として爆発させる、そんな会社を目指したいと考えています。
僕の場合は、採用以外は知らないことばかりなので、事業をやってきた責任者経験のある人を採用した方がいいと気づきました。経験が少ない部分(例えばサービスとお金の紐づけの部分、新規事業、経営など。採用以外全部ですが)など上手く嚙み合っていく人材をとることに意識を向けて採用していくべきだと思いました。
それから、お互いが知り尽くしている人と一緒に仕事をやることも難しいと思います。最初はいいのですが、距離が近いがゆえに言いやすい反面、言いにくいところもあり、阿吽の呼吸みたいなものを期待する分、何かがあった時に温度感が違ってくるのです。
関係があるゆえに、何で言ってくれなかったのか、仲良くしていたつもりだったのになんでだろうと自責の念にかられることもありました。そういう経験から、自分はビジネスと今までの関係のスイッチの切り替え方がまだまだ下手くそだと思っています。
ユーザーやお客様から言われた一言に、パワーが膨らむ
—— 起業されて、会社経営をやめたいと思ったことはありますか?
やめようと思ったことは無いですね。全く無いです。でももっと早く起業したらよかったとも思いません。そういう人もいますが、僕は31歳で起業してよかったです。起業は大変ですが楽しいです。
毎日がジェットコースターです。いいことは一気にやってきますし、悪いことも立て続けに起こる。波があります。起業してからすごく感情の起伏も激しくなった気がします。「起業はマラソンと同じ。毎日粛々と続ける、やりきる人が勝つ」と先輩経営者からよくアドバイスもらいますが、「毎日平常運転」は今の自分の目標です。
やっていくうちにトンネルの中で匍匐前進していても、少しの光が見えるときがあります。それは自社のビジョンに、ユーザーやお客様から一言「いいですね」と言われたときです。ついつい自分で事業をやっているとサービスに対する愛情が強くなり、盲目的になりがちです。そんな時に改善点も不満も良いところも率直に伝えてくれる顧客の声を聞くと、悔しさや嬉しさが混ざり合った気持ちになり、とてもパワーが漲ってきます。
悩みは尽きないですが、「溢れてて健全」なのがスタートアップの面白さだと思います。悩んでる暇ないです。人がやったことに挑戦するんだからやるしかない。仲間も増えたことで、やりたいことが掛け算で増え、毎日記憶がないですが、それも含めて楽しいです。
500円でもいいから自分で稼いでみる。実験・実験・実験。
—— 経験から伝えたい、若者へのアドバイスがありましたらお願いします
自分で1円でも多くお金を稼ぐ楽しさを知って欲しいと思います。家庭教師をやっていた時、まず家庭教師登録すると手数料を取られるのですが、時給が3000円のはずなのに、実際手取りが半分くらいになっていて「何これ、全部欲しい。」と思いました。ちょっと自分でやってみようという感じで営業をはじめました。
その時に自分で自分の提供価値を決める気持ちよさと、そこに対する交渉の難しさがあり、初めて顧客満足度調査の重要さもわかりました。更に受注した時にもっと提供価値を出さないと次の家庭教師先が決まらないという考えが進みます。ひょんなことから始まりましたが楽しかったです。
自分が金額を決めれる、その金額の根拠を作る、それで承認を得たら、次はそれを超えるためのサプライズは何をすればいいのか考える。これって今とあまり変わらないというか。小さい起業経験だと思うのです。
例えばカフェの店員だったら、ドリンクメニューを自分で考えてみて、それに対するユーザーのヒアリングをやってみるのもいいですね。「起業します」と最初から憧れをもって肩ひじ張ると、上手くいかなくて息切れするのではないでしょうか。起業はあくまで手段なので、やりたいことが漠然とでもないとうまく息切れします。僕もまさか自分が起業すると思ってなかったのですが、やりたいことをやる手段が起業だった、という感じです。
自分で1円でもお金を稼ぐことって嬉しいし、僕はとにかく初めてもらった3,000円ですね。3,000円って普通に何時間かバイトすればもらえるんですけれど、自分から生まれたんだというところがあったから特別でした。
小さく試して500円でもいいから自分で稼いでみるのがいいでしょう。転売でもいいです。いくらで買って、いくらで売る、数を増やすのか、単価を上げるのか、そして自分が提供したことを喜んでくれる人がいるということがセットになると、とても楽しいと思います。「イキイキ働くエンジニアを増やす」ので、興味ある方はまずはTechTrainに飛び込んでみてくださいね。ありがとうございました。