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【株式会社ジースポート 黒田 篤】作って、試して、失敗して、作り直す その繰り返しの商品が作り手の想いとお客さんを繋ぐ

2020/01/27

Profile

黒田 篤

株式会社ジースポート  代表取締役社長

大学院で研究していた技術を使って起業をしたが、研究向け商品は市場が広がらず失敗。28歳の時、交通事故に遭い自らリハビリを経験することで「ゆがみーる」を作ることに至った黒田氏。同社はITとバイオメカニクスを掛け合わせた技術を独自に開発し、健康で生活を快適にする製品やサービスを提供している。どんな想いが同社の商品を生んだのか黒田氏に伺った。

プロダクトアウトとマーケットイン 2つを掛け合わせたものをつくりたい

—— 株式会社ジースポートの事業内容を教えてください。

現在は「はかる、みる、わかる」をテーマに「ゆがみーる」や「あゆみーる」という身体の見える化を通じて先生とお客さまの信頼関係を向上させる商品を提供しています。

当時研究室が一緒だった同級生の研究成果をもとに、2人でそれを事業化できないかということで2000年に起業しました。何を提供していたかというと、大学や病院の研究者をお客さんにして、人の動きを研究するシステムを開発して提供していました。NHKや産総研と協力して、ソフトバンクの工藤監督の現役時代のパフォーマンスを番組にすることも手伝っていました。

当時お台場の産総研とは「モーションキャプチャ」という機械を使って共同研究をしていました。筋肉がどう使われているのかを独自にシミュレーションし、分かりやすく映像で出して、運動が上手な人と、そうでない人の筋肉の使い方が分かるようなソフトのシステムを作っていました。この機械は、リハビリをしている人にも使っていて、どういう歩き方をすればトレーニングになるかという研究している人達もいます。

しかし、世の中に同じ研究をしているお客さまは限られていて、ユーザーのニーズはあるものの数が少ないという状態でした。これを作るのに3年もかかって頑張ったのですが、なかなか一般の方々まで使ってもらうことができませんでした。

—— そのシステムはやはり料金も高額でしたか?

当時(2000年)は最新のものは10億する機械もありました。作ったものの、なかなか売れず、売り上げが立ちませんでした。起業して3年で壁にぶつかって大ピンチでしたね。なんでもいいから売れるところがないかと当時は本当に何でもしました。

当時から高齢者が増えるだろう、子供は減るからビジネスはしてもしょうがないだろうと言われることもありましたが、自分たちは「子供向けにいくか」と。そして「運動会で一番になる方法」や「背番号1をつける方法」というDVDや本を先生方と作りました。

それまでスポーツや陸上を専門に研究している先生たちがお客さんで、選手は記録を向上させたりメダルを取る事が目的です。研究には資金が必要で、多くは税金を使っています。税金を使うなら一般の人にも還元されていいだろうという想いからでした。研究成果を使って、子供たちが足が速くなればいいなと思いました。

子供の指導をするのは体育の先生ですが、速く走る走り方を知っている体育の先生はほとんど誰もいませんでした。きっとみんな欲しがると思って、本やDVDを作ったらかなり好評でした。でも売り切ったら終わりでした。もうなんでも試して、これは上手くいった、これは上手くいかなかったの繰り返しでしたね。

その中でも「ゆがみーる」は事業的に上手くいった商品の1つです。

人間は左右対称じゃないので、歪んでいます。また筋肉と骨格のバランスも人や環境によって様々です。それを客観的に見える化する方法がありませんでした。腕のいい先生達はちゃんと知っていて患者さんに説明出来ますが、ある先生はこう言っていて、別の先生は別のことを言うとなると誰を信じればいいか分かりませんよね。だから、それがきちんと客観的に見える方法を作ったら、皆使ってくれるんじゃないかと思いました。

私たちは運動を分析する技術を研究をしていたので姿勢に応用し、「ゆがみーる」は体の写真を3枚撮って分析し、百点満点中何点か、どこの筋肉が張ったり弱いかというのをシミュレーションで推定しました。だんだん整骨院や運動の先生達はこれを使って患者さんに説明してくれるようになりました。

—— これは整骨院向けのサービスですか?

整骨院や整体、フィットネス、スタジオ、介護施設などに使って頂いています。日本だと1000カ所以上で導入されていて、海外にも売りに行っている商品になります。

最初に作り始めたのは2007年で、当時はフィットネスクラブに売りに行きましたが全然売れませんでした。でも使いやすさ、分かりやすさをどんどんバージョンアップして売れ始めたという感じです。あと、世の中が「からだの歪み」に大きく興味を持ち始めたのも結構あとだったので、「ゆがみーる」が売れ始めたのは2010年ぐらいから少しづつでしたね。

—— 途中で、自信がなくなったり、この商品は必要とされてないんじゃないかと思ったりしませんでしたか?

1番最初に思ったのは、お客さんの欲しいものを作ればよかったと後悔しました。我々の商品は圧倒的にプロダクトアウトで、当時はマーケットインに何故しないのかと言われていました。
でも、マーケットインだけするんだったら、私が会社をやらなくていいと思っていました。自分がやりたいことや作りたいことがあるからやる。お客さんに作ってくださいって言われてそれを作るんだったら、自分が作りたいものとは違うかもしれないですよね。作りたいし、かつ必要とされているものを作りたいです。結局は両方大事ですね(笑)。

—— そもそも、これを作ろうと思ったきっかけは何ですか?

28歳の時のバイクでの交通事故ですね。一命を取り留めましたが、複雑骨折を4カ所して、長期のリハビリを受けました。自分がリハビリの現場で実際にやってみて、リハビリの課題が見えて、何か足りないんじゃないかと思ったんです。今は歩けるようになりましたが、その当時はもう歩けないかもしれないと言われていました。

その時先生に「これだけ頑張ったらこれぐらい良くなるよ」と言って欲しいと思いました。

リハビリは「やる気をどうやって出すのか」が大事だと思ったんです。体のどこかに問題があってそれを改善する時に、どれだけ頑張ればいいのかが分かるものをなんとか作りたいと思いました。これが今の「はかる、みる、わかる」に繋がっていると思います。

私の中ではプロダクトアウトもマーケットインも2つに分けられるものではなくて、作ってみて、試して、失敗して、作り直しての繰り返しだと思います。これをなるべく短期間に仮説を作り上げて検証するというのが、プロダクトアウトとマーケットインのもう一つ上の段階で、それをなんとかやりたいなと思いました。

失敗を恐れず、挑戦すべし

—— 会社をやめようと思ったことはありますか?

会社を辞めようと思ったことは一度もありませんでした。大学を卒業して、1回就職してその後交通事故にあって、もうこれより下はないかなと思いました。数か月間寝たきりだったので、一生分寝たと思いましたね。

後は、もともと楽観的だったからですかね。ちょっとぐらい失敗しても、別に誰に迷惑をかけるわけでもないし、会社はたたんでもいいと思っていました。そしたらどっかにお世話になって、そこのビジネスを大きくするとかそういう手もあるだろうと。その時考えればいいかなと思っていました。

—— そんなにリハビリを頑張れたのはなんでですか?

クビになるかもと思ったので頑張れました(笑)リハビリっていつ良くなるかもわからないし、「もう歩けないかもしれないですよ」と言われてやる気も出ませんでした。唯一その当時自分を駆り立ててくれたのは、ゴールドマン・サックスという外資系証券の社員だったので、「君いつ帰ってこれるかわからないなら、君の席ないよ」と言われるかもしれないという恐怖でした。もちろん実際には言われませんでしたが。

その時、私はそうやってみんな脱落していくんじゃないか、現状は困難でも、やる気になれるような仕組みや方法がないとまずいんじゃないか、と思いました。

—— 最後に、挑戦を恐れている人たちにメッセージをお願いします。

若いうちにたくさん挑戦するべきだと思います。若ければ若いほど、失敗のダメージは小さいと思っています。大学で学生にお話をさせて頂く機会がありますが、学生の中には、起業して失敗しても履歴書には書かなくていいから学生時代に起業する。もし失敗してもそのまま就職活動ができるし、就活にも有利という方もいます。

したたかに生きていいと思いますよ。

株式会社ジースポート 

設立 2000年7月
資本金 4400万円
売上高 非公開
従業員数 12名
事業内容 1,健康状態を測定・チェックする商品・サービス ①簡易姿勢分析装置 ゆがみーる ②簡易姿勢計測センサー Pocket-IMU ③姿勢・運動計測技術の提供、コンサルティング   2,健康状態を高度に計測し、身体や運動のメカニズムを分析する商品 ①3DマッスルシミュレータARMO ②ARMO歩行モーメントビジュアル ③高度運動計測技術の提供、コンサルティング   3,健康増進、運動改善のために運動や身体機能を教育・学習する商品 ①子どもの動作改善DVDシリーズ ②解体演書 ③運動計測に基づく動作改善セミナー等のコンサルティング
URL http://www.gsport.co.jp/ http://www.yugamiru.com/ http://www.chiryou-mieruka.com/
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