サッカーを諦めた18歳が働く意義を考える転機になった
—— 留田さんは VSbiasを大学生の時に起業されたと伺っています。経緯を教えていただけますか?
自分は18歳までサッカーしかしてなかったです。プロを目指してずっとやっていましたが、18の時に限界を感じて諦めました。世界大会に出る機会もあり、プロという選択肢がだんだんと現実的に想像できるようになった時に「プロサッカー選手の中でも、レベルが何層にも広がっている」ことに気づいたんです。
バイトやりながらサッカーしてる人もいれば、メッシみたいな世界でトップレベルに稼ぐアスリートもいますよね。それまではプロサッカーという雲を目指して飛んでいて、やっと近づいたと思ったら、雲が何層にも分かれて上下に広がっていたみたいな感じです。そんなプロの世界でトップ層に行ってやる、というほどの情熱が当時の自分になかったんですよ。それでサッカーを辞めたのが、僕にとって大きな転機でしたね。
サッカーを辞めて大学生になり、何をしようか本当に迷いました。プログラミングしようとかハモネプしようとか。最終的に「22歳で卒業してそこから65歳まで働くのに、何も働いたことない状態で会社選ぶって結構リスキーだな」と考え、働いてみることにしました。
携帯会社の代理店で営業したり、IT企業でWebメディアの仕事をしたり、AIの会社で働いたりと学生ながら就業経験を積んでいきました。
その後、3年生の時に関西の大学の方に戻り、2社で培ったWebの経験を活かして個人事業主として案件を受け始めました。その時に受けた不動産会社の案件がすごくうまくいったんですよ。
当時、東京でアパートがどんどん建っていたんですが、部屋が埋まらないという問題が発生していました。そこで、外国人向けに空いた不動産を集めて多言語で案内するポータルサイトを作ったんです。日本では仲介会社も不動産ポータルサイトも外国語非対応がほとんど。外国人が不動産を探すのはとても大変だったという背景もあり、そのサイトはとてもうまくいきました。
ただ、うまくいく一方で自分の中でモヤモヤしていることがあったんです。「日本人が住みたくない物件を外国人に売るって社会的意義があることなのか」とか、「何のために働いているんだろう」とか。
そのモヤモヤから、その仕事を辞めようと考え、他の案件を受けようか就職しようか迷っていた時に、ある経営者の先輩から「会社作ったらいいんじゃない?」と言われました。それで創業したのがVSbiasですね。

時代の先端を攻める原動力は知的好奇心
—— 濃い学生時代ですね!会社を経営する中で失敗したことはありますか?
いっぱいありますけど、どれが1番おもしろいかな(笑)
例えば、うちは2015年から民泊事業していますが、その頃の日本はまだAirbnbに今の100分の1ぐらいの民泊しか掲載されていませんでした。だから法律とかまだできてなかったんですよね。民泊に関する法律が施行されたのって2018年6月15日なんですよ。
新しい法律は、段階的に中身の規則が決定していくのですが、それが決まりきる前に、結構大きな案件を進めていました。でも法律が決まりきった後に、その案件が新しい法律的に厳しい部分があることがわかったんですよ。それをクリアするために満たすべき条件が増えて、予算がオーバーしました。
でも、クライアント側は「それは前から予想できたことだから追加の予算は出さない」ということで、意見が食い違ってしまいました。追加の予算を出してもらうどうかで、数千万円っていう差額が発生するレベルだったので、こちらとしても譲れず、血のにじむような交渉を繰り返しましたね。不動産は割と気性が荒い業種なので、怒鳴られまくったりとか、本当に苦労しました。
最終的には増加した業務を請負範囲から外してもらったり、追加の予算を部分的に認めてもらったりして、対応可能な範囲に抑え込むことができました。本当に訴訟されるかどうかの瀬戸際でした。まあ逆にいうと、スタートアップにしかできない事業をしていたということにもなります。法律が制定する前ってそういったトラブルが起きる可能性もあるんで、大手企業はなかなか踏み切れないんです。そういう時代の先端を攻めて新しいインパクトを起こさないとスタートアップは意味がないんですよ。
—— そういうギリギリを攻める原動力ってどこにあるんでしょう?
知的好奇心ですね。自分は何かを学ぶことがすごく好きなんですよ。「知りたい」、「自分が信じるものが本当に価値があるのか証明したい」という欲求で動いてます。VSbiasの事業でいうと、「旅が人の価値観を変え、人生をもっと豊かにすることができる」という自分の信念を証明したい、というのがモチベーションになっていますね。
アメリカでピーターティールという有名な投資家がいるんですが、彼が「自分だけが知っている真実を探せ」っていうことを言っていて、それがまさに当てはまります。みんなが知っている真実は誰でも思いつくので価値がないんですよ。でも、自分だけしか知らない真実は自分が証明する価値があるんです。この真実を証明することは、自分の人生の意味になると思っています。
日常では出会えない経験が旅行を豊かにする
—— なるほど。自分だけの真実を証明するためにどんな事業をされているんでしょうか?
VSbiasでは、全国で約50件の宿泊施設をプロデュース・運営しているんですが、無人運営のホテルや、サウナに入れるグランピング施設など、ホテル業界の中でも、かなり特殊な領域を開拓しています。
旅行というのは、日常のレールから飛び出す行為だと思っているんですよ。でも定番の観光名所を見て回る旅行では、決まりきった経験しか持ち帰れないし、その人にパーソナライズされた感動は得られにくいですよね。人それぞれ感動するものは全然違いますし。
例えば、うちが経営する富士山のホテルでは、18時以降のアクティビティをたくさん提供しています。大半の周辺アクティビティは18時には閉まっちゃうので、そのあとは夜ご飯食べて、寝るみたいな決まりきった過ごし方しかできませんでした。でもうちの施設ではBARを運営していて、約50カ国から集まった人と交流することができるし、施設内のイベントに参加することもできます。
ホテルのコンセプトは” meet new! “といって、日常では出会えない”人”や”価値観”、”経験”といった機会を提供しています。施設内のものにも一つ一つこだわりがあって、プレイリストを自社のスタッフが作成して、20万円もするサウンドスピーカーで鑑賞したり、そういった日常では出会えない作り込まれたものを置いています。旅先で良い音響設備を体感して、その良さに魅了されてハマるかもしれないですよね。こういう経験も旅行で出会う感動の一つだと考えています。
旅行で新しい経験や感動に出会い、それを日常に持って帰ってもらう、そんな機会を提供しています。
—— VSbiasは2016年に株式会社メタップスの子会社になり、その後また独立されています。その理由を教えていただけますか?
1番は自分の「世界に挑戦する」って目的を考えた時に、安心感のある今の環境は違うと思ったことですね。
メタップスの子会社でいた時は資金もあり、ネームバリューもあるので、安心感がありました。それに、メタップス元社長の佐藤さんは基本的に事業に口を出さず、自由にやらせてくれましたし、親会社の従業員300人規模の経営も近くにいて色々と学べたので、本当にいい環境でした。
でも、「自分が信じるプロダクトや仮説を証明するために、世界に挑戦したい」と考えた時、親会社の安心はなく、独立を決断しました。坂本龍馬や高杉晋作などの偉人も20代を駆け抜けて、その勢いで大きなことを成し遂げたんですよ。自分が25歳なことを考えたら、攻め切るには今しかないと思いました。

時間対効果が低いことができるのは大学生だけ
—— 最後に大学生に向けてメッセージをお願いします。
今振り返って思うのは、時間対効果が低いものに時間を割けるのは大学生だけなんですよ。例えば僕が今、2週間会社の経営をせずに車の合宿免許に行くとか、なかなかできません。だから、留学したりワーホリしたりで1年以上 海外に住む経験なんかは、しといて損はないと思います。
海外に住むと正解なんてないんだってことに気づきますからね。日本のコミュニティだけで過ごしていると、画一的な価値観を持って、これが正解の道だ。とか思いがちなんですけど、本当はいろんな人間が自分の正解を探して生きているんです。それを教科書からではなく体感を持って知ると、自分の当たり前が崩れますね。
あとは、学生って「働くこと」にいろいろな幻想を持っているので、就職前に半年ぐらい働いて、企業ってどういうもので、社会人がどういうモチベーションで働いているのかを経験すると就活の軸になると思います。目上の経営者の方と話すと、今は昔に比べると起業もそんなに難しくないから、やりたいことや挑戦したい気持ちがある人は起業してみてもいいとも思います。失敗しても学生なら最悪、親や友人が助けてくれたり、働き口もあるだろうし、そんなに大きな損はしませんよ。