一国一城の主になりたかった
—— 原さんが、会社を作った目的は何ですか。
人材系の分野でこれまでずっとやってきたので、とりあえずそこ から始めたのですが、最初からなにか具体的にやりたかったことや、明確な目的があったわけではないです。まずは組織を離れて自分の足で立つことから始めて、いろんな経験や出会いから、自分のやりたいことはこれだ、と言えるようになってきました。起業家といっても、独立してから模索していくタイプと、最初からやりたいことを決めて取り組む人とでは、タイプが違います。私は前者ですね。
ではどうして自分の会社を作りたかったのかといいますと、どうしても組織の中にいるとルールに縛られてしまい、それはそれで大きいことができたり、面白さがあったんですが、いずれは自分自身でやりたいという気持ちがありました。一国一城の主のような感じで、自分の好きなようにしたいと思っていました。何をやりたいかよりも、自分一人で立ちたい気持ちの方が強かったですね。
—— 原さんは、ずっと社長になりたいと考えられていたということですが、どういう経緯で、 社長になろう、と決意されたのですか。
会社を作る前は、リクルートという会社にいました。そこで、3年働くと1ヶ月休むことができる「ステップ休暇」という制度があって、それを利用してニューヨークに行きました。そこで、じっくり自分と向き合って、キャリアプランを考えて、やっぱり自分の会社を作ろう、と決めました。ま、そこから10年ぐらいはずっと居心地がよかったリクルートにいましたが。
—— 独立される際には不安などはなかったのですか。
それなりに心構えだったり、力を身に着けたり、プランをある程度立てて、というのがあ ったのでそこまで不安とかはなかったです。チャレンジは無謀ではいけなくて、成功させる確率を高めながらやっていくべきだと思います。
チャレンジは成功させるためにするもの
—— 社会人として一番の失敗談などはありますか?
小さなミスや失敗はいくつもありますが、会社を作ってから会社を揺るがす大きな危機 というのはありません。サラリーマン時代に、機械の営業をしていて、1000 万円代の機械を売った相手先から詐欺にあったことならあります。取引をした相手の会社が計画倒産して、機械は海外に流出、お金もどこかに流れていってしまった、というのが入社3年目の経験です。
—— それはかなり大変な経験ですね。ショックでしたか。
まずは会社に申し訳ない気持ちと、自分の落ち度を感じました。詐欺グループの一味と思われる人の後をつけたり、責任を感じてなんとかお金を取り返そうとしたのですが、結局は法務の部門の方にお願いして、処理することができました。
—— その経験から、今に生きていることは何かありますか?
何か契約をするときにはきちんと裏を取るようにするとか、取引は慎重にするとか、社会には人をだまそうといろいろ考える人がいて、甘くないということを学びました。
—— 失敗に関して、学生など、失敗を恐れてチャレンジすることができない人が多くいると思いますが、どう考えますか。
まず、小さい失敗っていうのは事業にはつきものです。また、小さいチャレンジを積み重ねていけば大きなチャレンジになるものなので、やみくもに大博打みたいにチャレンジすればいいというものでもありません。失敗しても立ち直れなくなったら終わりなので、やっぱりチャレンジするからには成功させること、仮にうまくいかなかったとしても、致命傷にならないように慎重にするという意識も必要です。
最初はチャレンジしたいこと、やりたいことが明確になかったとして も、一つ一つ仕事をしっかりやっていけば、そのうちに挑戦したいことややりたいことがわかってくる時が来ます。それまでは目の前のことに集中して、力をつけることがまずは大事です。
情熱+戦略というスタンス
—— では、やりたいことがあるけれど、一歩踏み出すことができない人に対してはどう考えますか。
その「やりたいこと」が、本当にやりたいことならば、自分で動かずにいられないはずなので、そこでやみくもにやってみようとするのではなく、しっかりそれなりにうまくいく方法を考えて、成功できるように進んでいくべきだと思います。
僕自身も、やりたいことが最初から決まっていたわけではなくて、人材系のことをやろうという気持ちはあったのですが、はっきり内容が決まっていたわけではなく、慣れた分野でとりあえず自分の会社を作りたいという気持ちが強かったです。
簡単に言うけれど「やりたいこと」ってなんでしょうか。最初は漠然としたものでも、それをしっかり突き詰めていくことで、使命感などにつながるものだと思います。だから、若いうちにどうしてもこれだ!、と一つに決める必要はないのでは。情熱をもってやりたいことを決めて進んでいくことも大事ですが、それは単なる思いつきとか勢いじゃないか、とクールに見つめていける視点も、成功をつかむには大事なことです。
エネルギーも必要ですが、戦略家としての面、すなわち慎重さが不可欠ということです。単なる情熱家てや理想家だけではなく、戦略家でもあること。事業というのは、基本的に失敗することのほうが多いという現実がありますから、10年続けていくというの、はなかなか大変であると知っておいてください。
リソースの壁にどう立ち向かっていくか
—— 原社長の作られた会社も、今年で13年目ということになりますが、10年続けていくため に、やはりクールに現状を見つめてやってきた、という感じなのでしょうか。
クールにというほど余裕があったわけではないですが、もちろん潰れないように一生懸命やってきました。会社や経営というのはなかなかシンプルにいくものではなくて、景気など、浮き沈みがあります。その中でつぶれずにやっていければ、ノウハウもお金もたまるし、取引先が増えるなど、うまくいきやすくなりますが、そこにたどり着くまでにお手上げになってしまうことも多いです。例えば人を集めるなんてことは、基本的に資金がなければどうしようもないですから。
—— 会社を立ち上げられたとき、人材の壁に当たったことはなかったのですか?
リクルートで人材採用に関しての仕事をずっとやってきたので、人を採ることに関しての苦労はほかの会社よりも少なかったですが、人を雇うということにはやはりコストがかかりますし、リスクにもなるので、そこは事業の拡大とともに等身大で無理しないようにやってきたという感じです。
—— 若者に対してアドバイスなどがあればお願いします。
好きなことがなにかにもよりますが、もし事業やビジネスに関してやりたいことがあるのであれば、勢いだけでなんとかなるということはビジネスの世界ではあまりないので、情熱と戦略を両立することはもちろん、かつそれを実行できるだけのリソース、つまり人・モノ・カネをどう調達していくかということが大事です。
事業を成功に導く道は、無限にあると思います。自分らしく等身大で行くことが私のスタイルでした。皆さんも自分なりのやり方を見つけるといいと思います。そのエンジンになるのは、情熱や理想を持つこと、それがなければ前に進んでいけません。そのステアリングになるのは戦略や計画を持つこと、それがなければ方向性を誤ってしまいます。
今度の大河ドラマにもなる渋沢栄一氏は、日本産業界の父のような方ですが、その言葉に「論語とそろばん」というものがあります。論語とは理念や哲学を持つということ、そろばんというのはしっかりと計算するということ。それが事業を成功させる二本柱だと実感しています。