職場はブラックボックス化する。マネジメントにかける想い
—— 株式会社KAKEAIさんはどのような事業をやられているのでしょうか?
科学とテクノロジーを融合させて、マネジメントの質を高めるサービスを提供しています。
具体的には、上司が部下に対して自身の経験や思い込みだけで部下を押し付けて、非生産的な状況ができるのを避けることを目指しています。
たとえば上司は「部下のAさんはきっとこういう人だから、こういうタイプの人間で、こんなふうに関わっておけばうまくいくだろう」って思って、自分の経験から勝手に判断してそれを部下に押し付けちゃうことがあるんですよ。もちろん悪気がない上司はほとんどで、一生懸命やっているんだけど、結局受け手にとっては全然嬉しくなかったりするんですよね。
つまり上司の考え方やマネジメント能力だけで、部下の人生は左右されるんです。
そして、その上司のやり方をマネジメントするのが人事の役割の一つでもあるんですけど、実際は人事は現場の実態はなかなか見えないから「多分あそこはこうだろう」「あそこは大丈夫だろう」みたいな感覚的な判断に頼らざるを得ないところもあって、上司の部下に対する関わり方とはブラックボックス化しがちなものなのです。
そこでKAKEAIでは脳科学に基づいて上司にマネジメントのアドバイスなどをしています。たとえば「そもそもAさんとあなたとではこういう違いがあるから、こういう状態を作ってあげたほうが力を発揮しやすいんですよ」みたいな。つまり人の過去の経験とかや勘ではなくて、科学的に計測して最適な改善方法を提案することをしています。
—— 本田さんがその事業を始めたきっかけというのは何だったんですか?
やっぱり会社員時代の失敗が大きかったと思います。
僕はもともと人の生き方に関わっていく仕事がしたくて、そういう仕事に対してすごく大きい価値があると今でも感じているんです。もともとは教員になろうと思っていたのですが、就活時期になり、周りの友人たちを見て、自分はなんで教員をやりたいのかって考えた時に、「人の人生に関わる仕事がしたい」ということに気づき、2002年にリクルートに入ったんですよ。
なぜリクルートかっていうと間接的だけど、人の生き方に大きく関われると思ったからです。たとえば就職するとか転職するとか、家を買うとか、結婚をするとか、そういった人生の節目節目のところで、情報をきちんと出し、選択の機会を提供することで、人の人生は大きく変わると思うんです。だからここだったら自分は頑張れるな!って思えて、リクルートに入社することにしました。
結局リクルートには2014年くらいまでいて、わりと長く働いたんですけど、ただ辞める少し前に大きな失敗をしたんですよね。それがやっぱり起業のきっかけというか自分の生き方とか、自分の人生に何をかけて生きていくのかっていうのを見つめ直すきっかけになりましたね。
それからリクルートを辞めた後はスタートアップの役員をしてて、やっぱり自分が本当にしたいことをやろうとすると、会社員として働いてたらどうしても距離があるわけですよ。だから自分の思う世の中になっていったらいいなぁって思って、そのための1つの手段として起業することにしました。それが2018年の4月です。
「あなたには誰もついて行きたくないって知ってます?」部下からの評価で鬱に。
—— そのリクルート時代での失敗を教えてください。
僕がリクルート時代の最後にしていた仕事は「人事」の仕事でした。人事の仕事にはいくつも種類がありますが、僕は「現場の上司の部下に対する関わり方をよりよくする」仕事(具体的に言えば、現場の上司に対して「部下に対してこう接してください」などと改善を促す役割)、「人事異動」を担当していました。
でも、結局のところ、日常的な上司の部下に対する関わり方とは、現場の上司に任せるしかなくて、そうすると本当にきちんと部下に関われているのか実際のところは見えないわけで、結局いくら色々な施策をおこなっても最後に現場の上司の個人力に任せざるを得ないというところに限界を感じていました。
一方で、異動の仕事もやっていたわけですが、異動というのは、いくら理想があっても現実的には、各部署の都合などでそう綺麗にはいかないわけです。現実の中で結果的に異動させてしまった子の元気がなくなっていくとかあるわけですよ。僕はここで働く一人ひとりの人生に役に立ちたいと思って働いているのに、構造的になかなかできなかったのです。
そんなときにリクルートで360度評価、つまり部下が上司も評価するような仕組みがあって、リクルートの場合はそれが無記名でおこなっているんですね。そこで僕に対して、自分の部下から「あなたには誰もついて行きたくないって知ってます?」と書かれたんです。
世界から音が無くなり、めまいがするほどショックでした(笑)
僕は一人ひとりに対してすごく一生懸命にやっていたつもりで、時間も使ったし一人のことを思って将来何したいのかを聞きながらその人はどうすれば仕事をうまくこなせるのか、その人の力を引き出すために必死に考えていたつもりだったのです。
実際、部下の何人かが体調を崩し始めてポロポロやめ始めていたわけです。やっぱり自分が間違っているんだなということを強く思い始めて。同時に、人が減って仕事が忙しくなってしまったこともあって、僕自身鬱になって会社を2ヶ月くらい休んだんですよね。
それがリクルート時代の大きな失敗です。
—— それからどうやって立て直したのでしょうか?
その当時、それなりに期待をしてもらってもいたので、鬱になって戦線離脱感がものすごくて。周りからは色々思われているんだろうなぁという気持ちがあって会社にも行きづらかったです。
そんな時、通院していた病院の先生から「本田さん、あなたが見ている世界はあなたの脳が捉えている世界なので、本田さんが思うようなことを、みんなが思ってるかどうかわかりませんよ。」って言われたんです。
その言葉をもらって改めて「自分が自分の部下に対してとっていた行動も、結局は相手ではなく自分にとってしたいことをしていただけだったのかな」と思い始めて、もう一回仕事で挽回してみようというように思えてきて。
そしてまたリクルートで1年くらい働いて、スタートアップの役員を経験して、そこから自分の目標のために結果的に起業したって感じですね。
苦しい1年間ではあったけど、やっぱり今の事業ですごく活きてる。
—— 会社を辞めるという選択肢があった中で、なぜそこから同じ仕事を1年もやれたのですか?
やっぱり反省の気持ちが強かったんだと思います。部下に対して。
それをなんとか塗り替えたいというか、申し訳なかった気持ちのところをできるだけ塗り替えて、役に立つ人に戻りたいっていう気持ちがあったからですかね。それもエゴではありますが、今振り返ればそれが正直な気持ちです。転職できるかもしれないし、転職して職場の環境が変わったら楽かもしれないけど、ここで自分に向き合わなかったらずっと引きずるなって思ったんです。
辞めるのはいつでも出来るので、「1回そこに向き合った方が自分の将来にとって意味があるな」と思ってたし、そうすることで「その後の人生を悔いなく過ごせるだろう」という気持ちが強かったからですね。
ちょっと学生の皆さん受けしそうなことを言ってみました笑
—— 1年やってみて実際どうでしたか?
苦しい期間ではあったけど、やっぱり今の事業ですごく活きてます。それをやってなかったら多分今の事業はやっていなかったと思います。
今は今で大変なことはたくさんあるけれど、自分の失敗にしっかりと向き合うと決めているので、今の仕事の大変なことも乗り越えられます。
社会に染まらず、正しいと思うことを自分で判断できる社会人に!
—— 最後に学生へメッセージをいただきたいです。
「やってみなくちゃな」って思うことが自分にあるならとにかくやってみることです。失敗しても何回だってやり直せるし、思い切って飛び込んでみるっていうのをやったほうがいいです。そうすれば仮に失敗したとしてもそこから次に得られるものがあると思うし、特に今学生の時だからこそできることがたくさんあるはず。
社会人になったらどんどん環境に染まっていって、自分の中の普通が操作されていく。学生の時に思ってたようなこととかが社会で働く中で「あぁ上司はこういうもんなんだ」とか、「社会はこういうもんなんだ」とかだんだん妥協していくんですよ。
そういうのはすごくもったいないなって思うんです。「こっちをやったほうがいい」「これはおかしい」とかフラットに捉え、それをしっかりエネルギーにしながら、動いてください。
「社会がこうだから自分もこうしなきゃ」みたいに流されるような判断や妥協をするのではなくて、自分で判断して正しいと思える方に動けるようになってほしいと思います。
そうすればだんだん世の中もよくなっていくと思うので、ぜひ、社会に染まらずに生きてください。